片想いウイルス(短編集)
とりあえず二階堂を隣の席に座らせて、彼の主張の勘違いをひとつずつ正していくことにした。
「ええと……先輩にチョコを渡したっていうか。正しくは部署の全員に渡した、かな。出張のお土産、チョコ菓子なんだけどね。そこのテーブルの上に広げて置いといたんだけど……」
「は?」
わたしが指した先――出入り口付近にある打ち合わせ用のテーブルに目を向けた二階堂は、そこに置かれた箱を確認して「お、おう……」とバツが悪そうな返事をした。
「それで、二階堂への義理チョコのことだけど……。甘い物は苦手だっていつも言ってるから、二階堂へは毎年、あんたがよく行ってるコーヒーショップのブレンド。テイクアウトして差し入れてたんだけど……」
「は……?」
「今年差し入れができなかったのは、二階堂もわたしも出張だったからで……。二階堂は直帰するって聞いてたから、まさか会社に戻るとは思わなくて。コーヒー買って来なかったんだけど……。だから、明日でいいかな?」
「いや、うん……明日でいい。ブレンドな……」
「分かってる」
「いや、まあ、ええと……たまに忘れた頃に鈴村からコーヒーもらうなって思ってたけど、そういうことだったのか……」
「甘い物苦手でも、もらったものは全部食べてるし、毎年陰で苦しそうにしてるから。チョコやお菓子は少しでも少ないほうがいいでしょ。だからバレンタインとか誕生祝いとか、何かイベントがあるときはいつもコーヒーを差し入れるようにしてたの」
「まあ、うん……どうも……」