片想いウイルス(短編集)


 さっきまでの威勢と不機嫌はどこへやら。二階堂は気まずそうに顔を反らし、眉間の皺を深くした。
 でもこの皺はさっきまでとは明らかに意味が違う。

 それが簡単に分かってしまうから、もう可笑しくて可笑しくて。からかわずにはいられなかった。


「ねえ二階堂、今年に入ってお餅何個食べた?」

「は? 餅? 今年は正月に実家帰らなかったし、ひとつも食ってねぇけど……」

「じゃあこれが今年ひとつ目のお餅か」

「は……? おまえ何言って……」

「やきもち。焼いたんじゃないかと思って」

 言うと二階堂は途端に顔をしかめて「ばっ! かじゃねーの!」と声を荒げた。

「やきもち焼いてんだと思うならコーヒー用意しとけ!」

 でも否定しないところを見ると、やきもちは焼いていたらしい。


「だからコーヒーは明日ちゃんと用意するってば。ていうか二階堂は出張先から直帰って聞いてたんだけど?」

「そのつもりだったんだけどさ……」

「なに?」

「夕方連絡があったんだよ。みんなチョコ持って来てるから、会社に顔出してくれって。だから一旦家帰って荷物置いて、わざわざ車で来た」

「へえ、そうだったんだ」

「ああ。出張で疲れてんのによぉ。寒いし、新幹線座りっぱなしでケツ痛ぇし……」

 なんて言いつつも、二階堂は会社に戻って来た。

 いくら戻るように言われても、疲れているからと一蹴することだってできたはずなのに。みんなが自分のためにチョコを用意して待っているのだから、と。そちらを優先させた。
 二階堂はそういうやつだ。

 そういうところも好きだなぁ、なんて。



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