片想いウイルス(短編集)
改めて思いながらくすくす笑うと、ふと思い出した。
そういえばこの間買ったお煎餅があったはず。デスクの引き出しを開けてみると、やっぱりあった。お煎餅が三枚。
「はい、二階堂。今日のところはこれで許して」
そのお煎餅を差し出すと、二階堂は受け取りながらくっくっと笑う。
「なんで引き出しに煎餅隠し持ってんだよ」
「この間お昼にケーキ食べたら、しょっぱいものが食べたくなって」
「まあ、バレンタインに煎餅なんて鈴村らしいわ」
「いや、バレンタイン用のお煎餅じゃないから」
笑いが止まらない二階堂は「これなら俺のほうがちゃんとバレンタインしてるわ」と言って席を立ち、すぐに自分のデクスから紙袋を持って来た。そして得意気な表情でわたしに紙袋を差し出したのだった。
「なに?」
「出張土産」
「ええ? お土産買う時間なかったって、みんなに言ってなかった?」
「全員分はねえよ。新幹線の時間も迫ってたし、買えたのはそれだけ」
「わたしがもらっちゃっていいの?」
「いいんだよ、おまえで」
「ふーん? じゃあ遠慮なく。どうもありがとう」
お礼を言いながら紙袋を覗くと、包装紙に書かれた文字から、それが有名な和菓子であることが分かった。しかもこれはチョコレートを使った季節限定のものだ。
確かにお煎餅三枚と明日渡す予定のコーヒーよりも、二階堂のほうがバレンタインしている。
こんなに良いお土産、というかバレンタインをもらったのだから、ちゃんとしたお返しを考えたほうがいいかもしれない。
得意気な表情のまま二階堂は、早速お煎餅を食べるようで、わたしのデスクに置いてあったウェットティッシュのケースに手を伸ばす。
そういえばわたしも、昼に出張先でファストフードを食べてから何も食べていなかった。
時間も時間だし、今日はもう帰って早いとこ晩ご飯を食べればいいのだけれど。隣で二階堂はお煎餅をかじり始めてしまったし、めちゃめちゃ美味しそうな音をたてているし。わたしも早速、もらったお土産を開けることにした。