navy blue〜お受験の恋〜
2時間かけて何とか全てを終えて営業部のフロアに戻ると、友利の姿が見えない。
デスクの上に放ったらかしにしていたスマートフォンを手に取ると、友利からメールが来ていた。
『ミーティングルームに居るから終わったら来て』
1時間ほど前に届いていたそのメールの受信画面を、可那はしばらく見つめた。
いつも敬語だった文面が、急に変わった。
そんなに頻繁にメールのやり取りはしていないけど、なんだかここのところ急に距離が縮まっている気がする。
可那はフロアを出てミーティングルームへ向かった。
廊下の突き当たりのドアの前に立つと、誰かと話す友利の声が聞こえた。
なんだ2人きりじゃないのかとガッカリしながら遠慮がちにドアをノックをすると、ゆっくりとドアが開けられた。
ドアを抑えながら友利はスマートフォンで話し、目線だけ可那に合わせている。
可那は、友利の横をすり抜けるようにしてミーティングルームの奥へと入った。
コの字型に並べられたテーブルの角に、ノートPCが置かれている。
PCの斜め向かいの椅子に腰を下ろし、可那は友利を見つめた。
彼はドアの近くで立ったまま誰かと話し込んでいる。
話の内容からして、電話の相手はアデール本社の人間だろうか、時おり話しながら可那に目線を合わせてくる。
やや低めの友利の声は、耳障りが良くてほんの少し早口だけど何故か聞きやすくて可那はとても好きだった。
友利は話しを終えると、髪を弄りながらゆっくりと歩き「ごめん、お待たせして。」と言いながら斜め向かいの椅子に座った。
「こちらこそ。友利さん、ずっとここで仕事してたんですか?」
「うん、営業会議の資料作るのにあっちだと集中できなくてさ。今日、内勤の営業が多くてめちゃくちゃ話しかけてくるんだよ。」
友利の困ったような半笑いの表情に、可那もつられて笑った。
「セミナー終わってからも、みんなあのまま内勤してたんですね。」
「そう。南は準備終わった?」
可那は余裕の表情を作って友利に頷いて見せる。
あなたに手を握られ動揺して全くはかどりませんでした、なんて冗談は今は言わない。
「手伝えなくてごめんな。」
友利の表情が、本当にそう思っているよ、と真剣な色をしている。
この人は育ちが本当に良いんだなぁ、と思いながらそっと可那は首を横に振った。
「もうなんか、だんだん慣れてきちゃいました。」
「そっか。でもほんと、大変な時はいつでも言えよ。」
「優しいー。」
「そうだよ、南、お前、本部に行く事が決まったから。ますます身体は労っていかないと。」
「え?」
友利がさりげなく発した『本部』という言葉の存在感が頭の中にじわりじわりと広がっていく。
デスクの上に放ったらかしにしていたスマートフォンを手に取ると、友利からメールが来ていた。
『ミーティングルームに居るから終わったら来て』
1時間ほど前に届いていたそのメールの受信画面を、可那はしばらく見つめた。
いつも敬語だった文面が、急に変わった。
そんなに頻繁にメールのやり取りはしていないけど、なんだかここのところ急に距離が縮まっている気がする。
可那はフロアを出てミーティングルームへ向かった。
廊下の突き当たりのドアの前に立つと、誰かと話す友利の声が聞こえた。
なんだ2人きりじゃないのかとガッカリしながら遠慮がちにドアをノックをすると、ゆっくりとドアが開けられた。
ドアを抑えながら友利はスマートフォンで話し、目線だけ可那に合わせている。
可那は、友利の横をすり抜けるようにしてミーティングルームの奥へと入った。
コの字型に並べられたテーブルの角に、ノートPCが置かれている。
PCの斜め向かいの椅子に腰を下ろし、可那は友利を見つめた。
彼はドアの近くで立ったまま誰かと話し込んでいる。
話の内容からして、電話の相手はアデール本社の人間だろうか、時おり話しながら可那に目線を合わせてくる。
やや低めの友利の声は、耳障りが良くてほんの少し早口だけど何故か聞きやすくて可那はとても好きだった。
友利は話しを終えると、髪を弄りながらゆっくりと歩き「ごめん、お待たせして。」と言いながら斜め向かいの椅子に座った。
「こちらこそ。友利さん、ずっとここで仕事してたんですか?」
「うん、営業会議の資料作るのにあっちだと集中できなくてさ。今日、内勤の営業が多くてめちゃくちゃ話しかけてくるんだよ。」
友利の困ったような半笑いの表情に、可那もつられて笑った。
「セミナー終わってからも、みんなあのまま内勤してたんですね。」
「そう。南は準備終わった?」
可那は余裕の表情を作って友利に頷いて見せる。
あなたに手を握られ動揺して全くはかどりませんでした、なんて冗談は今は言わない。
「手伝えなくてごめんな。」
友利の表情が、本当にそう思っているよ、と真剣な色をしている。
この人は育ちが本当に良いんだなぁ、と思いながらそっと可那は首を横に振った。
「もうなんか、だんだん慣れてきちゃいました。」
「そっか。でもほんと、大変な時はいつでも言えよ。」
「優しいー。」
「そうだよ、南、お前、本部に行く事が決まったから。ますます身体は労っていかないと。」
「え?」
友利がさりげなく発した『本部』という言葉の存在感が頭の中にじわりじわりと広がっていく。