navy blue〜お受験の恋〜
「さようなら。」
正門の前で園長先生にご挨拶をした乃亜の手を引いてみちかはひみつのこみちへ入った。
「ねぇ、今日ね、実咲ちゃんが体操の時間に跳び箱10段飛んだんだよ。」
「そうなの?10段、実咲ちゃんすごいね。」
乃亜はニコニコしながらみちかを見上げる。
「うん。ねぇ、ママ、今日はどうしてお迎えに来てくれたの?」
いつもと変わらない無邪気な乃亜の笑顔に、みちかは言葉を詰まらせる。
鼻の奥のツンとした痛みが去って行くのを待ってからみちかは言った。
「今日はね、乃亜ちゃんに早く会いたかったからよ。」
「へぇ、そうなんだ。乃亜ちゃんもママに会いたかったよ。ママありがとう。」
乃亜が笑い、みちかはほんの少しだけホッとする。
乃亜ちゃんにルツ女の合否の結果はまだ伝えないでください、と百瀬には言われていたが、伝えるまでもなく、乃亜は合否がある事自体を今は忘れてくれているようだった。
13時頃、サンライズ体操教室に電話をかけると電話に出たのは百瀬だった。
乃亜の不合格を伝えると、『そうですか…。』と、一瞬、黙り込んでしまった。
『なんとか気持ちを切り替えて明後日の聖セラフのお試験頑張りましょう。明日は、僕も出来る限りの事が出来たらと思います。お待ちしていますね。』
彼が本気で落胆したのは声のトーンでもよく伝わってきた。
それでも前向きな百瀬の言霊のお陰か、なんとか気持ちを切り替えようとみちかは思ったのだ。
そして1分でも長く乃亜との時間を作ろうと今日は園までお迎えに来た。
今、必要なのはおそらく勉強とか試験の対策じゃなくて乃亜と向き合う事のような気がする。
乃亜の顔を見てたくさん話しをしたい。
親子の時間が今の折れそうな心を支えてくれるような気がした。
ルツ女の試験の結果はショックだし気持ちは未だひたすら哀しいけれど、私達はやるだけの事をやってきた。
だから乃亜に必要な道は、開けるように出来ている、みちかはそう思う事にした。
けれども悟はそんな風に思えない様子だった。
いつも通り変わらず遅く帰ってきた悟はみちかの顔を見るなり「本当なの?」と詰め寄った。
「乃亜が落ちるなんて信じられない。一体何が悪かったの?ちゃんと対策してきたんだよね?」と、矢継ぎ早に責めるような口調の悟に、みちかは涙をこらえるのに必死で何も返せなかった。
「もう、中学受験でいいんじゃない?」と、冷たい一言を放ち、悟はバスルームのドアを荒々しく閉めた。
怒りと哀しみで綯い交ぜになった気持ちは、みちかの落ち着いた気持ちをあっという間にかき乱した。
こんな時に支え合えない私たちは、一体、何のために夫婦でいるのだろう。
夜の考えが悪戯に心を蝕むのは分かっている。
けれど、本当にもう悟と私は修復できない所まで来てしまったのかもしれない、指1本でも触れたら落ちてしまいそうなギリギリの所でなんとか立っているのかもしれない。
一体いつからなのだろう。
なぜ悟は、こんなに私を放っておくのだろう。
悟を責める気持ちが、煮えたつ様にグラグラと自分の中で熱くなる。
みちかはその夜も眠れなかった。
正門の前で園長先生にご挨拶をした乃亜の手を引いてみちかはひみつのこみちへ入った。
「ねぇ、今日ね、実咲ちゃんが体操の時間に跳び箱10段飛んだんだよ。」
「そうなの?10段、実咲ちゃんすごいね。」
乃亜はニコニコしながらみちかを見上げる。
「うん。ねぇ、ママ、今日はどうしてお迎えに来てくれたの?」
いつもと変わらない無邪気な乃亜の笑顔に、みちかは言葉を詰まらせる。
鼻の奥のツンとした痛みが去って行くのを待ってからみちかは言った。
「今日はね、乃亜ちゃんに早く会いたかったからよ。」
「へぇ、そうなんだ。乃亜ちゃんもママに会いたかったよ。ママありがとう。」
乃亜が笑い、みちかはほんの少しだけホッとする。
乃亜ちゃんにルツ女の合否の結果はまだ伝えないでください、と百瀬には言われていたが、伝えるまでもなく、乃亜は合否がある事自体を今は忘れてくれているようだった。
13時頃、サンライズ体操教室に電話をかけると電話に出たのは百瀬だった。
乃亜の不合格を伝えると、『そうですか…。』と、一瞬、黙り込んでしまった。
『なんとか気持ちを切り替えて明後日の聖セラフのお試験頑張りましょう。明日は、僕も出来る限りの事が出来たらと思います。お待ちしていますね。』
彼が本気で落胆したのは声のトーンでもよく伝わってきた。
それでも前向きな百瀬の言霊のお陰か、なんとか気持ちを切り替えようとみちかは思ったのだ。
そして1分でも長く乃亜との時間を作ろうと今日は園までお迎えに来た。
今、必要なのはおそらく勉強とか試験の対策じゃなくて乃亜と向き合う事のような気がする。
乃亜の顔を見てたくさん話しをしたい。
親子の時間が今の折れそうな心を支えてくれるような気がした。
ルツ女の試験の結果はショックだし気持ちは未だひたすら哀しいけれど、私達はやるだけの事をやってきた。
だから乃亜に必要な道は、開けるように出来ている、みちかはそう思う事にした。
けれども悟はそんな風に思えない様子だった。
いつも通り変わらず遅く帰ってきた悟はみちかの顔を見るなり「本当なの?」と詰め寄った。
「乃亜が落ちるなんて信じられない。一体何が悪かったの?ちゃんと対策してきたんだよね?」と、矢継ぎ早に責めるような口調の悟に、みちかは涙をこらえるのに必死で何も返せなかった。
「もう、中学受験でいいんじゃない?」と、冷たい一言を放ち、悟はバスルームのドアを荒々しく閉めた。
怒りと哀しみで綯い交ぜになった気持ちは、みちかの落ち着いた気持ちをあっという間にかき乱した。
こんな時に支え合えない私たちは、一体、何のために夫婦でいるのだろう。
夜の考えが悪戯に心を蝕むのは分かっている。
けれど、本当にもう悟と私は修復できない所まで来てしまったのかもしれない、指1本でも触れたら落ちてしまいそうなギリギリの所でなんとか立っているのかもしれない。
一体いつからなのだろう。
なぜ悟は、こんなに私を放っておくのだろう。
悟を責める気持ちが、煮えたつ様にグラグラと自分の中で熱くなる。
みちかはその夜も眠れなかった。