navy blue〜お受験の恋〜
マジックミラー越しに、その乃亜と百瀬のやり取りをみちかは見守っていた。
いつもの行動観察対策に加えて、個別と呼ばれる先生との一対一の受け応えの練習。
自分の言葉で上手に説明が出来る事、目上の人にきちんとした対応が出来る事を意識し、そのやり取りの練習は行われる。
ハキハキとしたリーダーシップのある子を好む聖セラフに乃亜の性格はぴったりとは言い難い。
けれど百瀬の元、今日まで重ねてきた努力で乃亜は随分変わったと思う。
百瀬の質問に楽しそうに応える乃亜の表情を見ていたら、試験の結果を悔いる事を忘れている自分がいた。
その時、教室に女性の先生が入り百瀬とバトンタッチをした。
教室を出た百瀬の足音がこちらへ向かって来るのが分かり、みちかは思わず姿勢を正す。
今日の生徒は乃亜だけなので、今日、この保護者席に居るのはみちか1人だった。
「友利さん。」
みちかの目の前に、百瀬が現れる。
立ち上がり会釈すると、百瀬は綺麗に指を揃えた手をかざし、どうぞ座ってくださいと言うようにそっと頷いて見せた。
みちかがソファに腰を下ろすと、百瀬は隣に座った。
いつもよりも距離が近くてみちかはドキドキした。
「乃亜ちゃん今一度、個別対策を宮部が担当します。今日もとても落ち着いていますし、明日はきっと良い結果が出せると思いますよ。」
百瀬はそう言って、ニコリと笑った。
けれどもすぐにその表情は曇ってしまった。
「あの、友利さん。」
百瀬が苦しそうな表情で、じっとみちかを見つめてくる。
こんな表情を見たのは初めてだと、みちかは思う。
「先生、どうなさったのですか?」
首を傾け、その苦渋に満ちた百瀬の表情をじっとみちかは見つめた。
「あの、今回のルツ女の件は、本当に僕が至らなかった所が大きかったと…。本当に申し訳ありませんでした。」
そう言って、百瀬はうな垂れたように頭を下げた。
「そんな…先生の責任じゃありません。先生、どうかそんな顔なさらないで。」
思わずみちかは、百瀬の顔を覗き込む。
今にも泣き出しそうな百瀬の表情に胸が痛んだ。
悪いのは、先生じゃない。
「合格を頂けなかったのは、私と主人の責任です。私と主人の仲が悪いから…。それが面接で伝わってしまったのだと思います。先生のせいじゃないわ。」
百瀬が驚いたような顔をしてみちかを見つめる。
あぁ、思わずなんて事を言ってしまったのだろうと、恥ずかしくなりながらもみちかは続けた。
「乃亜も私も、百瀬先生が居てくださったからここまで頑張れました。私は先生に感謝しかないので…。どうかそんな風に思わないでください。」
静かにそう言って、みちかは百瀬に笑って見せた。
「ありがとうございます。」
百瀬の声が、いつもの甘い耳障りの良い声に戻りみちかはホッとする。
「それに、先生が聖セラフを乃亜にすすめてくださって本当に良かったと思っています。明日はこの悔しさをバネに頑張りますから。」
「なんだか、逆に励まされているみたいですみません。良かった…。」
百瀬の口元がそっとほころんだ。
きっと子供の頃から彼はこんな風に真っ直ぐだったに違いない、なんて可愛いらしいんだろう。
その素直な表情に、思わずみちかは見とれた。
いつもの行動観察対策に加えて、個別と呼ばれる先生との一対一の受け応えの練習。
自分の言葉で上手に説明が出来る事、目上の人にきちんとした対応が出来る事を意識し、そのやり取りの練習は行われる。
ハキハキとしたリーダーシップのある子を好む聖セラフに乃亜の性格はぴったりとは言い難い。
けれど百瀬の元、今日まで重ねてきた努力で乃亜は随分変わったと思う。
百瀬の質問に楽しそうに応える乃亜の表情を見ていたら、試験の結果を悔いる事を忘れている自分がいた。
その時、教室に女性の先生が入り百瀬とバトンタッチをした。
教室を出た百瀬の足音がこちらへ向かって来るのが分かり、みちかは思わず姿勢を正す。
今日の生徒は乃亜だけなので、今日、この保護者席に居るのはみちか1人だった。
「友利さん。」
みちかの目の前に、百瀬が現れる。
立ち上がり会釈すると、百瀬は綺麗に指を揃えた手をかざし、どうぞ座ってくださいと言うようにそっと頷いて見せた。
みちかがソファに腰を下ろすと、百瀬は隣に座った。
いつもよりも距離が近くてみちかはドキドキした。
「乃亜ちゃん今一度、個別対策を宮部が担当します。今日もとても落ち着いていますし、明日はきっと良い結果が出せると思いますよ。」
百瀬はそう言って、ニコリと笑った。
けれどもすぐにその表情は曇ってしまった。
「あの、友利さん。」
百瀬が苦しそうな表情で、じっとみちかを見つめてくる。
こんな表情を見たのは初めてだと、みちかは思う。
「先生、どうなさったのですか?」
首を傾け、その苦渋に満ちた百瀬の表情をじっとみちかは見つめた。
「あの、今回のルツ女の件は、本当に僕が至らなかった所が大きかったと…。本当に申し訳ありませんでした。」
そう言って、百瀬はうな垂れたように頭を下げた。
「そんな…先生の責任じゃありません。先生、どうかそんな顔なさらないで。」
思わずみちかは、百瀬の顔を覗き込む。
今にも泣き出しそうな百瀬の表情に胸が痛んだ。
悪いのは、先生じゃない。
「合格を頂けなかったのは、私と主人の責任です。私と主人の仲が悪いから…。それが面接で伝わってしまったのだと思います。先生のせいじゃないわ。」
百瀬が驚いたような顔をしてみちかを見つめる。
あぁ、思わずなんて事を言ってしまったのだろうと、恥ずかしくなりながらもみちかは続けた。
「乃亜も私も、百瀬先生が居てくださったからここまで頑張れました。私は先生に感謝しかないので…。どうかそんな風に思わないでください。」
静かにそう言って、みちかは百瀬に笑って見せた。
「ありがとうございます。」
百瀬の声が、いつもの甘い耳障りの良い声に戻りみちかはホッとする。
「それに、先生が聖セラフを乃亜にすすめてくださって本当に良かったと思っています。明日はこの悔しさをバネに頑張りますから。」
「なんだか、逆に励まされているみたいですみません。良かった…。」
百瀬の口元がそっとほころんだ。
きっと子供の頃から彼はこんな風に真っ直ぐだったに違いない、なんて可愛いらしいんだろう。
その素直な表情に、思わずみちかは見とれた。