navy blue〜お受験の恋〜
ナイトランプの小さな明かりの中、スマートフォンの液晶画面をじっとみちかは見つめていた。
乃亜を寝かしつけてからずっとスマートフォンを手に、既に30分が経過した。
明日の面接を自分一人で乗り切らなくてはならなくなってしまった不安は、時間が経てば経つほどに大きく膨らみ今にも緊張に押しつぶされそうだった。
悟が仕事でどうしようもないのは分かっている。
来れないのは仕方がない、ただ悟が同じ方向を向いてくれていない事が何より哀しく不安だった。
両親がこんな気持ちで乃亜が聖セラフに受け入れてもらえるとはとても思えない。
迷っていても前に進めない。
みちかは液晶画面にそっと指を触れる。
耳元で呼び出し音が鳴り響いた。
お困りのことがあったらいつでもかけてくださいね、そう言って教えてくれたプライベートの携帯番号に、自分が電話をかける日は来るわけがかい、そう思っていた。
忙しい百瀬を、煩わせたくはなかったのだ。
でも、今日だけは電話をかけてもいい、この不安を消せるのは百瀬しか居ない。
百瀬に甘えて、百瀬に魔法をかけてもらいたい。
いつも乃亜にしているように私だけに特別に。
それだけで自分は頑張れる、そんな気がした。
「はい、もしもし?」
もしかしたら出ないかもしれない、そう諦めかけた時、百瀬の声が耳元に飛び込んできた。
みちかは小さく息を吸い、出来る限り落ち着いた声で話そう、と気持ちを切り替える。
「友利乃亜の母です。百瀬先生ごめんなさい、こんな遅くに…。今、お電話大丈夫でしたか?ご自宅かしら。」
「あ、はい、大丈夫ですよ。今日はありがとうございました。どうされました?」
電話の向こうは静かだった。
自宅に居るのに申し訳ないのと、自宅に居る百瀬と話すなんてなんだか贅沢だなぁ、とみちかは妙な気持ちになる。
「あの、実は明日の聖セラフのお試験なんですが、主人が仕事を休めなくなってしまいまして…。面接が、私一人になってしまったんです。急なのでとても不安で…。思わず先生にお電話してしまいました。」
不思議な事に、話しながらもう気持ちが半分くらい楽になるような感覚だった。
百瀬の「えっ…。」とか「あぁ。」とか聞こえてくる相槌がとても優しくて、ちゃんと聞いてもらえているそんな安心感で包み込んで来るのだ。
「あぁ…、そうだったんですね。それは急で不安になりますよね。」
「そうなんです…。」
その明るいトーンの百瀬の声に、一気に力が抜けて行くようだった。
「あ、でも大丈夫です。僕の教えた生徒さんも何名か、お母様お一人の面接でちゃんと合格頂いていますから。聖セラフはそこはあまり心配なさらなくても大丈夫ですよ。そうゆう学校なんです。」
いつものように甘い声で、途中ほんの少し舌ったらずになりながら百瀬が説明する。
その可愛い癖に、みちかは自分の口元が緩むのが分かった。
「良かった…。それなら心配しなくて大丈夫そうですね。」
「はい、あ、そしたらご主人様に学校宛にお手紙を書いて頂いた方が断然いいです。伺えない理由と学校へ対するお気持ちを書いてそれを面接の際に学校長へ渡して頂くと安心です。ご主人様、お忙しいかな?良かったら僕、今、例文を作るので、友利さんにメールでお送りしましょうか?」
「そんな…、それは先生に申し訳ないです。なんとか主人に書いてもらいますので、ご心配なさらないで。ありがとうございます。」
百瀬の気持ちが嬉しくて、みちかは思わず泣きそうになる。
「そうですか?手紙は、ご無理のない範囲で大丈夫です。もし、難しそうだったら何時でもいいのでお電話してくださいね。」
「ありがとうございます。心強いわ。すっかり動揺してしまっていたので…。先生のお声が聞けて、それだけでもホッとしています。こんな前日にバタバタしてしまって、本当にごめんなさい。」
暗いベッドルームで独りよがりに固まっていた思考は、百瀬の魔法で解きほぐされて現実に引き戻される。
声が聞きたい、きっと本当はそれだけの理由で、それが叶えられた今は水を得たように心が生き生きとしていく。
大丈夫、きっと明日は大丈夫。
「いいんです、今度こそ乃亜ちゃんと友利さんに笑って欲しいので。どうかいつも通りの友利さんで挑んでくださいね。明日はうまく行くようにずっと祈ってます。」
スマートフォンを手にしたまま、百瀬の言葉にみちかは静かに頷いた。
通話を終えたみちかは、横で眠る乃亜を見つめる。
乃亜は幸せそうな表情で、小さな寝息をたてている。
その頭を優しく撫で、みちかはそっとベッドから起き上がった。
乃亜を寝かしつけてからずっとスマートフォンを手に、既に30分が経過した。
明日の面接を自分一人で乗り切らなくてはならなくなってしまった不安は、時間が経てば経つほどに大きく膨らみ今にも緊張に押しつぶされそうだった。
悟が仕事でどうしようもないのは分かっている。
来れないのは仕方がない、ただ悟が同じ方向を向いてくれていない事が何より哀しく不安だった。
両親がこんな気持ちで乃亜が聖セラフに受け入れてもらえるとはとても思えない。
迷っていても前に進めない。
みちかは液晶画面にそっと指を触れる。
耳元で呼び出し音が鳴り響いた。
お困りのことがあったらいつでもかけてくださいね、そう言って教えてくれたプライベートの携帯番号に、自分が電話をかける日は来るわけがかい、そう思っていた。
忙しい百瀬を、煩わせたくはなかったのだ。
でも、今日だけは電話をかけてもいい、この不安を消せるのは百瀬しか居ない。
百瀬に甘えて、百瀬に魔法をかけてもらいたい。
いつも乃亜にしているように私だけに特別に。
それだけで自分は頑張れる、そんな気がした。
「はい、もしもし?」
もしかしたら出ないかもしれない、そう諦めかけた時、百瀬の声が耳元に飛び込んできた。
みちかは小さく息を吸い、出来る限り落ち着いた声で話そう、と気持ちを切り替える。
「友利乃亜の母です。百瀬先生ごめんなさい、こんな遅くに…。今、お電話大丈夫でしたか?ご自宅かしら。」
「あ、はい、大丈夫ですよ。今日はありがとうございました。どうされました?」
電話の向こうは静かだった。
自宅に居るのに申し訳ないのと、自宅に居る百瀬と話すなんてなんだか贅沢だなぁ、とみちかは妙な気持ちになる。
「あの、実は明日の聖セラフのお試験なんですが、主人が仕事を休めなくなってしまいまして…。面接が、私一人になってしまったんです。急なのでとても不安で…。思わず先生にお電話してしまいました。」
不思議な事に、話しながらもう気持ちが半分くらい楽になるような感覚だった。
百瀬の「えっ…。」とか「あぁ。」とか聞こえてくる相槌がとても優しくて、ちゃんと聞いてもらえているそんな安心感で包み込んで来るのだ。
「あぁ…、そうだったんですね。それは急で不安になりますよね。」
「そうなんです…。」
その明るいトーンの百瀬の声に、一気に力が抜けて行くようだった。
「あ、でも大丈夫です。僕の教えた生徒さんも何名か、お母様お一人の面接でちゃんと合格頂いていますから。聖セラフはそこはあまり心配なさらなくても大丈夫ですよ。そうゆう学校なんです。」
いつものように甘い声で、途中ほんの少し舌ったらずになりながら百瀬が説明する。
その可愛い癖に、みちかは自分の口元が緩むのが分かった。
「良かった…。それなら心配しなくて大丈夫そうですね。」
「はい、あ、そしたらご主人様に学校宛にお手紙を書いて頂いた方が断然いいです。伺えない理由と学校へ対するお気持ちを書いてそれを面接の際に学校長へ渡して頂くと安心です。ご主人様、お忙しいかな?良かったら僕、今、例文を作るので、友利さんにメールでお送りしましょうか?」
「そんな…、それは先生に申し訳ないです。なんとか主人に書いてもらいますので、ご心配なさらないで。ありがとうございます。」
百瀬の気持ちが嬉しくて、みちかは思わず泣きそうになる。
「そうですか?手紙は、ご無理のない範囲で大丈夫です。もし、難しそうだったら何時でもいいのでお電話してくださいね。」
「ありがとうございます。心強いわ。すっかり動揺してしまっていたので…。先生のお声が聞けて、それだけでもホッとしています。こんな前日にバタバタしてしまって、本当にごめんなさい。」
暗いベッドルームで独りよがりに固まっていた思考は、百瀬の魔法で解きほぐされて現実に引き戻される。
声が聞きたい、きっと本当はそれだけの理由で、それが叶えられた今は水を得たように心が生き生きとしていく。
大丈夫、きっと明日は大丈夫。
「いいんです、今度こそ乃亜ちゃんと友利さんに笑って欲しいので。どうかいつも通りの友利さんで挑んでくださいね。明日はうまく行くようにずっと祈ってます。」
スマートフォンを手にしたまま、百瀬の言葉にみちかは静かに頷いた。
通話を終えたみちかは、横で眠る乃亜を見つめる。
乃亜は幸せそうな表情で、小さな寝息をたてている。
その頭を優しく撫で、みちかはそっとベッドから起き上がった。