navy blue〜お受験の恋〜
「うぅん、敬英じゃなくて…、他の学校を受けようと思っているの。ダメだったら近くの公立の緑ヶ丘に行くけどね。」

「小学校受験て、難しいんでしょう?」

しほりが心配そうな表情をみちかに向ける。

「そうね。なかなか厳しいみたいだけど、乃亜はお勉強が好きだからチャレンジしてみようと思って。」

できる限り明るい声でみちかは言った。
身内に経験者が居ないと、軽く捉えられるかもしくは重く捉えられる、と何かで読んだ事があるけれどどちらにしても本当の意味で理解をしてもらう事は難しい事だろう、とみちかは思う。

「親の面接なんかもあるんでしょう?」

豊の言葉に、るり子が血相を変えた。

「親の面接?悟くん、大丈夫なの?」

るり子が怪訝そうな顔をするのを見て、しほりはバツが悪そうにコーヒーを飲む。
みちかはそのるり子の表情に、自分の動悸が早まるのを感じていた。

「乃亜ちゃんはきっとしっかりできると思うよ?だけど、親も見られるんじゃ…。ねぇ?」

るり子の言葉には誰も同調しようとしない。
明らかに場の雰囲気が悪くなっている事もお構いなしでるり子は続ける。

「だいたい悟くんのあの髪型…。会社は大丈夫なの?部長さんなんだし、少しはちゃんとした方がいいよねぇ?あんなキノコみたいな頭じゃあちょっと取引先もびっくりしちゃうんじゃない?」

あはははは、とるり子が笑いみちかは自分の顔が熱くなるのを感じた。

「私は似合ってると思うよぉ。悟さんて、変わらないよね。お父さんの三回忌以来お会いしていなかったから四年ぶり?なのにむしろ若返った気がした。お洒落だし、背も高くてスラッとしてるし、美容部員さんにモテちゃうんじゃない?」

「まさかぁ。」

しほりのフォローの言葉に、るり子は気を悪くしたようだった。

「ママ、乃亜ちゃんお外のお魚が見たい。」

その時、乃亜が、みちかの袖を引っ張った。

「え?お魚?」

きっと父親の事を悪く言われている事に気付いているのだろう、みちかは珍しくわがままを言う娘の目が悲痛な色をしているような気さえしてしまった。

「あぁ、入口のところにあった水槽でしょ?おじさんと一緒に見に行こうか!」

豊が優しく乃亜に声を掛ける。

「俺も行くー!」

健が元気よく立ち上がる。
ギギギーッと椅子の足が床を引きずる音がして「健、静かにね。」と、しほりが小さく注意した。
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