navy blue〜お受験の恋〜
「友利さん、そちらで靴をスリッパに履き替えて頂いて宜しいですか?乃亜ちゃんは、上履きをお持ちですか?」

「はい。持って参りました。」

みちかは黒の低めのパンプスを脱ぎ靴箱に収めた。
乃亜も自分の小さな黒の革靴を、みちかの靴の隣に並べる。
スリッパと上履きにそれぞれ履き替えていると、「友利さん、お待ちしていました。」と頭上で声がした。

顔を上げると、百瀬が笑顔で立っていた。
園で着ているTシャツとは違うデザインのポロシャツと紺色のパンツ姿だった。
みちかの表情は自然とほころんだ。

「百瀬先生!!」

乃亜が嬉しそうに声を上げる。
あまり聞いたことのない大きなその声にびっくりしてみちかは思わず乃亜の顔を見た。

「乃亜ちゃん、こんにちは。よく来てくれましたね。今日は楽しく体操しましょうね!」

百瀬が大きな口をニッとさせて笑う。
その舌ったらずな発音の甘い声を聞き、みちかは、あれ?と思った。
その感覚が一体何なのか分からないまま、百瀬に案内されみちかと乃亜は、奥の教室まで歩いた。

「このお部屋が指示行動や行動観察などを行うお部屋です。あと、広い体育館が上の階にあって階段で行けるようになっています。お着替えは持ってきましたか?」

「はい。体操着を持ってきました。」

「あ、そしたらぁ、このお隣の小さなお部屋でお着替えができるので使っていただければ。」

そしたらぁ、と優しく語尾を高く伸ばす声がみちかには心地よく感じた。

「お着替えしていいの?」

乃亜もニコニコと百瀬を見上げる。

「うん。乃亜ちゃん、ここで着替えて、お隣のお教室に来てね。先生待ってまぁす。」

小さな更衣室に親子で入り、乃亜が楽しそうに体操着に着替える。
乃亜は百瀬の事がとても好きなのだろう、娘が心を開いている様子が見れて、ここへ来るまで少々緊張していたみちかはホッとしていた。

乃亜が着替え終わり、隣の部屋へ向かうとマットや平均台、低い跳び箱やフラフープなどが、クルリと輪になるように配置されていた。
後ろの壁に椅子が並べてあり、既に3人の男の子が母親と一緒に座っている。

「お好きなお席に座ってくださいね。」

百瀬の他にもう1人女性の講師が居て、声をかけてくれた。
みちかは奥の席に乃亜を連れて、並んで座った。

すると百瀬がこちらへ歩いて来て、乃亜の前にしゃがみこんだ。

「乃亜ちゃんのお名前を肩につけても良いですか?」

みちかと視線を合わせて確認をしてから「ともりのあ」と書かれた名札を乃亜の左肩につけてくれた。

みちかと隣り合う乃亜の左肩に百瀬の手が優しく名札をつけている。
すっと伸びた長い指、腕からつながる手のラインもとても滑らかで、あまりにも綺麗なその手にみちかは思わず見とれてしまった。
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