navy blue〜お受験の恋〜
「広いねー!」

乃亜が歓声をあげる。
歩いていると、乃亜が「わ!ブランコ!」と木の方を指差した。
見ると所々、木に長いロープがかけられ手作りのブランコになっている。
アスレチックのような遊具もいくつか設置されている。

「楽しそうね。」

乃亜がブランコに駆け寄りみちかの方を振り向いた。

「ママ、少しだけ乗ってもいい?」

みちかは一瞬、考えた。
今日乃亜の着ている淡い水色のワンピース。
学校見学用に新調した有名キッズブランドの数万円はするものだ。

ふと乃亜の足元を見ると、服と同じキッズブランドの革靴はすっかり砂をかぶり、同じようにみちかの靴も大分汚れていた。

みちかは乃亜に言った。

「いいわよ。怪我をしないように、気をつけて乗ってね。」

受付で貰った今日の資料にも遊具で自由に遊んで良いと書いてあった。
乃亜が嬉しそうに頷き、やや高いブランコによじ登るようにして乗る。
乃亜に駆け寄ると、みちかは濃紺のトートバッグを芝生に置き、乃亜の背中を押してやった。
満面の笑みで楽しそうにキャッキャと声を上げ乃亜がブランコを漕ぐ。

体操教室に通うようになって、乃亜に活発な面が出てきたように思う。
ただひたすら動き回る活発さではなく、静と動のメリハリが出てきた、という感じだった。
一昔前と違い、学校側も子供らしさのある子供を欲しがるようになったと百瀬が言っていた。
大人しい乃亜に少しでも積極性が出るように、百瀬はいつも配慮してくれる。
今日も説明会の後、体操教室へ行く予定だ。
週に一度の体操教室を、乃亜もみちかも楽しみにしていた。

「ママ、そろそろお馬さんを見に行こうよ。」

乃亜がそう言ったので、ブランコを止め2人で馬小屋のある広場の奥へと歩いて行った。
小屋の裏の背の高いサークルで囲まれた敷地に馬が放たれ、草を食べている。

乃亜がサークルに近づくと、馬がこちらへ向かってゆっくりと歩いてきた。
手を伸ばせば届く距離まで馬が近づき、乃亜の足元の草を食べる。
嬉しそうな表情で乃亜が息を飲んだ。

「触ってみたい。」

そう言って、乃亜が手を伸ばす。
けれどなかなか勇気がいるようで空中に浮いたままその手は馬に触れられずにいる。

「怖くないよ。ほら。」

みちかはそっと馬に触れてみせた。
毛並みに沿い馬の背中を撫でると手のひらに温かい体温が伝わってくる。

「乃亜ちゃん、お馬さんすごくあったかいよ。」

「え!本当?」

恐る恐る乃亜が馬に触れる。
馬は触れられる事に慣れているのかお構いなしに草を食べている。

「うわぁ、あったかい。気持ちいいねぇ。」

嬉しそうにそう言いながら、乃亜は馬をいつまでも撫でていた。
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