navy blue〜お受験の恋〜
診察を終えて、薬局で薬を受け取る頃にはすでに16時を回っていた。
午前中に採血をして午後に結果が出る、混んで待ち時間の長いクリニックなので通院の日は1日がかりになってしまう。
今日は、通常保育のお迎え時間には間に合わないので、乃亜は延長保育をお願いしている。
いつもは集合場所まで迎えに行けば良い所を、今日は園までお迎えに行くのだ。
みちかは幼稚園までの道のりを急いだ。
延長保育をお願いしたのは前回の通院以来、まだ2度目だ。
慣れない環境に居る乃亜がやや心配だった。
園に着いたのは17時近くだった。
延長保育のお部屋に行くと、ほんの少し疲れたような顔をした乃亜が先生に連れられてみちかの前に現れた。
「ママ、遅い…。」
乃亜がふてくされたような顔で目をこすりながら言った。
「ごめんね…。」
小さく謝り、親子で先生にご挨拶をして、教室を出た。
無言で、重い足取りの乃亜の手を引いてみちかは幼稚園の門を出る。
なんだか乃亜の手が熱い、眠いのかな?と、みちかは思った。
今日は確か昼間の保育時間に体操があったはずだ、疲れているのも無理はないな、と思いながら自宅への道を歩いた。
幼稚園から自宅までは、約1キロほどある。
子供にとってはやや長い道のりだけれど、日々の徒歩通園で乃亜も慣れているはずだ。
乃亜の歩くペースに合わせながらも頭では早く帰ることを考えてしまう。
いつもより帰りが遅くても、今日だってしっかり乃亜の勉強時間を確保したい。
乃亜の自宅学習の時間は朝と夜で毎日2時間だ。
ルツ女の合格を勝ち取るためには、ペーパー対策は重要だし、とにかく今は自宅での反復学習で確実に力をつける努力をする、とみちかは固く心に決めたのだった。
幼稚園から半分ほどの距離を歩いた時に、ふと乃亜が足を止めた。
じっと足元を見つめ、唇を噛み締めている。
「乃亜ちゃん、どうしたの?」
乃亜はみちかの手を握りしめ、硬い表情で黙ったまま立ち尽くしている。
「疲れちゃったの?」
みちかは、しゃがみこみ乃亜の顔を覗き込んだ。
泣き出しそうな表情で乃亜がみちかの目をじっと見つめている。
「あと半分だから、頑張って歩こう。」
できる限り優しい声をかけながら、みちかは内心、不安に思う。
乃亜がこんな表情をしたり、歩きたがらないなんて、最近では珍しい事だった。
自宅学習の時間に、自分が厳しく接してしまっているせいだったらどうしよう。
いや、そんな事はない、体操と延長保育で疲れているからだ、きっとそうだ。
みちかは気持ちを落ち着かせながら、乃亜に両手を広げてみせた。
「乃亜ちゃん…、抱っこする?」
乃亜は反応しない。
年長になってから急に重くなったし、なるべく抱っこをする事を避けてきた。
だからたまにしてあげる抱っこはとても喜ぶはずなのに…。
みちかは不安な表情で乃亜を見つめる。
乃亜は怒ったような赤い顔をして、ただみちかを見つめている。
「乃亜ちゃん…。」
みちかは乃亜の両手を取り、顔を覗き込んだ。
乃亜は嫌がるように、首を横に振る。
抱っこをしようとしても体を揺らして拒絶する。
困ったわ…。
みちかは徐々に動悸を覚えていた。
幼稚園から続くこの歩道は、雪村幼稚園の園児たちのためだけに存在するような小さな小さな細道だ。
少し離れた所に車道もある事はあるが、タクシーは滅多に通らない。
みちかは途方に暮れ小さくため息を漏らした。
午前中に採血をして午後に結果が出る、混んで待ち時間の長いクリニックなので通院の日は1日がかりになってしまう。
今日は、通常保育のお迎え時間には間に合わないので、乃亜は延長保育をお願いしている。
いつもは集合場所まで迎えに行けば良い所を、今日は園までお迎えに行くのだ。
みちかは幼稚園までの道のりを急いだ。
延長保育をお願いしたのは前回の通院以来、まだ2度目だ。
慣れない環境に居る乃亜がやや心配だった。
園に着いたのは17時近くだった。
延長保育のお部屋に行くと、ほんの少し疲れたような顔をした乃亜が先生に連れられてみちかの前に現れた。
「ママ、遅い…。」
乃亜がふてくされたような顔で目をこすりながら言った。
「ごめんね…。」
小さく謝り、親子で先生にご挨拶をして、教室を出た。
無言で、重い足取りの乃亜の手を引いてみちかは幼稚園の門を出る。
なんだか乃亜の手が熱い、眠いのかな?と、みちかは思った。
今日は確か昼間の保育時間に体操があったはずだ、疲れているのも無理はないな、と思いながら自宅への道を歩いた。
幼稚園から自宅までは、約1キロほどある。
子供にとってはやや長い道のりだけれど、日々の徒歩通園で乃亜も慣れているはずだ。
乃亜の歩くペースに合わせながらも頭では早く帰ることを考えてしまう。
いつもより帰りが遅くても、今日だってしっかり乃亜の勉強時間を確保したい。
乃亜の自宅学習の時間は朝と夜で毎日2時間だ。
ルツ女の合格を勝ち取るためには、ペーパー対策は重要だし、とにかく今は自宅での反復学習で確実に力をつける努力をする、とみちかは固く心に決めたのだった。
幼稚園から半分ほどの距離を歩いた時に、ふと乃亜が足を止めた。
じっと足元を見つめ、唇を噛み締めている。
「乃亜ちゃん、どうしたの?」
乃亜はみちかの手を握りしめ、硬い表情で黙ったまま立ち尽くしている。
「疲れちゃったの?」
みちかは、しゃがみこみ乃亜の顔を覗き込んだ。
泣き出しそうな表情で乃亜がみちかの目をじっと見つめている。
「あと半分だから、頑張って歩こう。」
できる限り優しい声をかけながら、みちかは内心、不安に思う。
乃亜がこんな表情をしたり、歩きたがらないなんて、最近では珍しい事だった。
自宅学習の時間に、自分が厳しく接してしまっているせいだったらどうしよう。
いや、そんな事はない、体操と延長保育で疲れているからだ、きっとそうだ。
みちかは気持ちを落ち着かせながら、乃亜に両手を広げてみせた。
「乃亜ちゃん…、抱っこする?」
乃亜は反応しない。
年長になってから急に重くなったし、なるべく抱っこをする事を避けてきた。
だからたまにしてあげる抱っこはとても喜ぶはずなのに…。
みちかは不安な表情で乃亜を見つめる。
乃亜は怒ったような赤い顔をして、ただみちかを見つめている。
「乃亜ちゃん…。」
みちかは乃亜の両手を取り、顔を覗き込んだ。
乃亜は嫌がるように、首を横に振る。
抱っこをしようとしても体を揺らして拒絶する。
困ったわ…。
みちかは徐々に動悸を覚えていた。
幼稚園から続くこの歩道は、雪村幼稚園の園児たちのためだけに存在するような小さな小さな細道だ。
少し離れた所に車道もある事はあるが、タクシーは滅多に通らない。
みちかは途方に暮れ小さくため息を漏らした。