navy blue〜お受験の恋〜
百瀬優弥は、幼稚園の門を出ると車道ではなく、園児たちの通園コースになっている細道へと入った。
子供達に『ひみつのこみち』と呼ばれているこの道は、住宅街の中にあり園児が通る時以外はひっそりと静かだ。
この細道を抜けると、狭い車道に出て、やがて駅に繋がる大通りへと続いていく。
園から体操教室の本部のある駅前までは徒歩で20分はかかる距離だった。
くねくねとした細道を軽い足取りで進んで行くと、園児としゃがみこむ母親が目に飛び込んできた。
深い緑色のロングスカートに上品な白のレースブラウス、その裾から色白の細い腕がすっと伸び、向かい合う女の子の手を握りしめている。
ゆるく清楚にまとめられたハーフアップの髪がふわりと風に揺れ、俯いたその横顔が見えた瞬間、百瀬は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
それは、ここ数日間ずっと待ち焦がれていた景色だった。
「友利さん。」
立ち止まり声をかけると、友利みちかは百瀬を見上げ、ほんの少しだけ驚いた顔をした。
「百瀬先生…。」
色白の頬が、ほんの少しだけ上気しているのかうっすらとピンク色に見える。
友利みちかはそっと立ち上がり、「今日は、幼稚園にいらっしゃったんですね。」と、優しく微笑んだ。
「はい。あれ!乃亜ちゃん、どうしたんですか?疲れちゃったのかな?」
友利みちかの足元では乃亜が目を潤ませながら百瀬を見上げている。
「あの…、なんだか延長保育で疲れてしまったようで。珍しく抱っこも拒絶するので困ってしまって…。」
友利みちかが乃亜に視線を落とし、それから百瀬の顔を見た。
なんとも言えない、心細そうな表情だった。
そうか、彼女はここで動かなくなった乃亜を相手に途方にくれていたのか、と百瀬は理解すると乃亜の前にしゃがみ込んだ。
「乃亜ちゃん、頑張って歩いてみようか?先生も一緒に歩くよ。頑張ろう?」
乃亜の目線より、やや低い位置から乃亜を見上げ友利みちかがやっていたように乃亜の両手をそっと握る。
「乃亜ちゃん、歩けないかな?」
優しい声で話しかける百瀬を見つめながら、乃亜の潤んだ瞳から涙がポロポロと溢れる。
「乃亜ちゃん…、先生が、抱っこしようか?」
母親の抱っこを拒むほどなのだから無理かもしれない、そう思いながらも百瀬は落ち着いて乃亜の瞳を覗き込んだ。
しばらくすると乃亜が泣きながら小さく頷いて一歩二歩と、百瀬の方へと近寄ってきた。
百瀬はそっと、乃亜を抱き上げ立ち上がった。
乃亜は完全に百瀬に身体を預けている。
友利みちかが驚いたように目を大きく見開き百瀬を見た。
「友利さん、僕、おうちまでお送りしますよ。」
「そんな…。いいんですか?お時間…、あの、教室へ戻られたり、お忙しいんじゃないですか?」
百瀬は首を振る。
「大丈夫ですよ。今日はサッカー教室がお休みだったのでいつもより早くて。時間に余裕があるんです。」
「そうですか…。すみません、先生…。本当に助かります。」
友利みちかが頭を下げる。
2人は並んでゆっくりと細道を歩き出した。
子供達に『ひみつのこみち』と呼ばれているこの道は、住宅街の中にあり園児が通る時以外はひっそりと静かだ。
この細道を抜けると、狭い車道に出て、やがて駅に繋がる大通りへと続いていく。
園から体操教室の本部のある駅前までは徒歩で20分はかかる距離だった。
くねくねとした細道を軽い足取りで進んで行くと、園児としゃがみこむ母親が目に飛び込んできた。
深い緑色のロングスカートに上品な白のレースブラウス、その裾から色白の細い腕がすっと伸び、向かい合う女の子の手を握りしめている。
ゆるく清楚にまとめられたハーフアップの髪がふわりと風に揺れ、俯いたその横顔が見えた瞬間、百瀬は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
それは、ここ数日間ずっと待ち焦がれていた景色だった。
「友利さん。」
立ち止まり声をかけると、友利みちかは百瀬を見上げ、ほんの少しだけ驚いた顔をした。
「百瀬先生…。」
色白の頬が、ほんの少しだけ上気しているのかうっすらとピンク色に見える。
友利みちかはそっと立ち上がり、「今日は、幼稚園にいらっしゃったんですね。」と、優しく微笑んだ。
「はい。あれ!乃亜ちゃん、どうしたんですか?疲れちゃったのかな?」
友利みちかの足元では乃亜が目を潤ませながら百瀬を見上げている。
「あの…、なんだか延長保育で疲れてしまったようで。珍しく抱っこも拒絶するので困ってしまって…。」
友利みちかが乃亜に視線を落とし、それから百瀬の顔を見た。
なんとも言えない、心細そうな表情だった。
そうか、彼女はここで動かなくなった乃亜を相手に途方にくれていたのか、と百瀬は理解すると乃亜の前にしゃがみ込んだ。
「乃亜ちゃん、頑張って歩いてみようか?先生も一緒に歩くよ。頑張ろう?」
乃亜の目線より、やや低い位置から乃亜を見上げ友利みちかがやっていたように乃亜の両手をそっと握る。
「乃亜ちゃん、歩けないかな?」
優しい声で話しかける百瀬を見つめながら、乃亜の潤んだ瞳から涙がポロポロと溢れる。
「乃亜ちゃん…、先生が、抱っこしようか?」
母親の抱っこを拒むほどなのだから無理かもしれない、そう思いながらも百瀬は落ち着いて乃亜の瞳を覗き込んだ。
しばらくすると乃亜が泣きながら小さく頷いて一歩二歩と、百瀬の方へと近寄ってきた。
百瀬はそっと、乃亜を抱き上げ立ち上がった。
乃亜は完全に百瀬に身体を預けている。
友利みちかが驚いたように目を大きく見開き百瀬を見た。
「友利さん、僕、おうちまでお送りしますよ。」
「そんな…。いいんですか?お時間…、あの、教室へ戻られたり、お忙しいんじゃないですか?」
百瀬は首を振る。
「大丈夫ですよ。今日はサッカー教室がお休みだったのでいつもより早くて。時間に余裕があるんです。」
「そうですか…。すみません、先生…。本当に助かります。」
友利みちかが頭を下げる。
2人は並んでゆっくりと細道を歩き出した。