navy blue〜お受験の恋〜
神社に寄った事で、駅まで少し遠回りになってしまったな、と思った。
模試終了時刻まで残り30分、サンライズの本部へ戻るにはちょうどよい時間かもしれない。
早足で大通りを下って行きながら、みちかはふと足を止めた。
大通りの向かいにそびえ立つアムリタホテル、ずっと昔に悟と泊まった事があるそのホテルから出てきた背の高いスーツ姿の見慣れた男性。
若い綺麗な女の子と並んで歩いて行くその人は、悟だった。
自分は夢を見ているのかな、と気持ちの悪い感覚に襲われ、全身がゾワっとする。
黒のパンツスーツを着こなしたその女の子は、隣を歩く悟の腕に自分の腕を絡ませた。
甘えるように悟を見上げ、微笑みかける。
ふたりは一体何を話しているのだろう。
みちかの耳には通りを行き来する車の音しか入ってこない。
どうしよう。
どうすればいい?
みちかは立ちつくし、向かいの通りをただただ見つめた。
悟は全くこちらに気づかず、彼女と楽しそうに坂を登って行く。
2人を呼び止めてもいい、自分にはその権利がある。
だけど乃亜を迎えに行く時間がもう迫っているのだ。
腕時計を確認し、みちかは大きく息を吐いた。
自分の身体が震えているのを感じながら、早足で坂を下った。
「友利さん、良かった。心配しました。ちょうど今から総評をお話しさせていただく所です。体育館へ…。」
百瀬はそう言いかけ、みちかの顔を見ると急に黙り込んだ。
前髪の隙間から、三白眼の大きな垂れ目がこちらを確認するようにじっと見つめている。
途方に暮れながら、みちかは彼の目を見つめ返した。
ここまでどうやって戻ってきたのか、ほとんど記憶が無い。
ひどく喉が渇いていた。
こんなに暑いのに、何かを一口飲むことすら思いつかなかった。
「友利さん…、大丈夫ですか?」
今、外で見てきた事全てが夢に感じる位、百瀬の姿はとてもくっきりとして見えた。
パリッとしたワイシャツと、グレーのネクタイ。
ネクタイはよく見ると控えめな光沢感の中に子供想いの百瀬らしく飛行機や車の透かし絵が入っていた。
「遅くなって、すみません…。」
乃亜の所へ行かなくては、と思うのに足が全く動かない。
まるで子供を持つ前の、責任のない頃の感覚に戻ってしまったようだった。
「いえ、あの…。もしかして、体調優れないですか?」
まるで子供に話しかけるような百瀬の甘ったるい声に、みちかは泣きたくなるのを必死でこらえる。
自分はバチが当たったのかもしれない。
これは、突然目の前に現れたこの素敵な人にうつつを抜かした罰かもしれない。
「すみません。あの…ちょっと気分が悪くて。」
「友利さん、こちらへ!」
その時ギュッと腕を掴まれる感覚に、みちかはハッとした。
よく分からないまま、目の前にあった扉が開かれ小さな教室に連れ込まれた。
模試終了時刻まで残り30分、サンライズの本部へ戻るにはちょうどよい時間かもしれない。
早足で大通りを下って行きながら、みちかはふと足を止めた。
大通りの向かいにそびえ立つアムリタホテル、ずっと昔に悟と泊まった事があるそのホテルから出てきた背の高いスーツ姿の見慣れた男性。
若い綺麗な女の子と並んで歩いて行くその人は、悟だった。
自分は夢を見ているのかな、と気持ちの悪い感覚に襲われ、全身がゾワっとする。
黒のパンツスーツを着こなしたその女の子は、隣を歩く悟の腕に自分の腕を絡ませた。
甘えるように悟を見上げ、微笑みかける。
ふたりは一体何を話しているのだろう。
みちかの耳には通りを行き来する車の音しか入ってこない。
どうしよう。
どうすればいい?
みちかは立ちつくし、向かいの通りをただただ見つめた。
悟は全くこちらに気づかず、彼女と楽しそうに坂を登って行く。
2人を呼び止めてもいい、自分にはその権利がある。
だけど乃亜を迎えに行く時間がもう迫っているのだ。
腕時計を確認し、みちかは大きく息を吐いた。
自分の身体が震えているのを感じながら、早足で坂を下った。
「友利さん、良かった。心配しました。ちょうど今から総評をお話しさせていただく所です。体育館へ…。」
百瀬はそう言いかけ、みちかの顔を見ると急に黙り込んだ。
前髪の隙間から、三白眼の大きな垂れ目がこちらを確認するようにじっと見つめている。
途方に暮れながら、みちかは彼の目を見つめ返した。
ここまでどうやって戻ってきたのか、ほとんど記憶が無い。
ひどく喉が渇いていた。
こんなに暑いのに、何かを一口飲むことすら思いつかなかった。
「友利さん…、大丈夫ですか?」
今、外で見てきた事全てが夢に感じる位、百瀬の姿はとてもくっきりとして見えた。
パリッとしたワイシャツと、グレーのネクタイ。
ネクタイはよく見ると控えめな光沢感の中に子供想いの百瀬らしく飛行機や車の透かし絵が入っていた。
「遅くなって、すみません…。」
乃亜の所へ行かなくては、と思うのに足が全く動かない。
まるで子供を持つ前の、責任のない頃の感覚に戻ってしまったようだった。
「いえ、あの…。もしかして、体調優れないですか?」
まるで子供に話しかけるような百瀬の甘ったるい声に、みちかは泣きたくなるのを必死でこらえる。
自分はバチが当たったのかもしれない。
これは、突然目の前に現れたこの素敵な人にうつつを抜かした罰かもしれない。
「すみません。あの…ちょっと気分が悪くて。」
「友利さん、こちらへ!」
その時ギュッと腕を掴まれる感覚に、みちかはハッとした。
よく分からないまま、目の前にあった扉が開かれ小さな教室に連れ込まれた。