navy blue〜お受験の恋〜
小さな会議室のような部屋で、ベージュのスーツで身を固めた南野と、強面の塾長が並んで座りこちらを見ている。

「友利乃亜の両親です。どうぞ宜しくお願い致します。」

悟の挨拶に続き、みちかも深々と頭を下げた。
悟とみちかに挟まれるように立っている乃亜も小さいながらに丁寧にお辞儀している。

「どうぞ、お座りください。」

南野の堅苦しい声を合図に、家族で並んで椅子に浅く腰掛ける。

「本日は、お越し頂きありがとうございます。それでは早速、お父様にご質問させていただきます。まずは本校の印象をお聞かせください。」

塾長の質問に対し、「はい。」と、悟が応え少しの沈黙があった。

「今、日系の企業が必要としている、社会に出た際に重要視される「主体性」を大切にしている学校だという印象を受けました。」

昨夜、夫婦で擦り合わせた内容のほんの一握りしか悟は話せていない。

「はい。ではお母様にご質問です。子育てをする上で、気をつけていらっしゃる事はありますか。」

みちかは喉が渇いていく感覚と、動悸に耐えながらなんとか笑顔を作り、面接官に頷いて見せた。

「はい。あの、周りの人の事をいつも気にかける事ができる機会を与えるよう気をつけております。
食事時などゆっくりと向き合える時間に『今日は幼稚園、誰かお休みした?』 など身近なお友達の話題をあげて、お休みしたお友達がいれば『心配だね。早くお熱が下がるといいね』など一緒に心配をするよう心がけるようにしています。」

「はい。それでは乃亜ちゃんにご質問しますね。乃亜ちゃんはこちらの学校に来た事はありますか?」

塾長が大きな身体をほんの少し乃亜に向け、前のめりになる。
怖い顔が笑顔に和らぐ。

「はい。あります。」

落ち着いて答える乃亜を、みちかはそっと見守った。

「乃亜ちゃんの、将来の夢は何ですか?」

「えぇと…、幼稚園の先生です。」

南野が「あら…。」と、笑顔で小さく呟いた。

「素敵な夢ですね。」

塾長も感心したように頷いた。
それからいくつも乃亜に質問をした。
乃亜はその度、しっかりと答えた。

「まずお父様なのですが。」

ひと通り面接の流れを終えると、南野が苦い表情をこちらへ向けて言った。

「ご存知かと思いますが、ルツ女の理念は純真、愛徳です。もちろん教育目標に主体性という文字も出てくるのですが、どちからというと今のお父様のお話しは敬栄学園寄りの印象ですね。ルツ女の事は研究し尽くしているし惚れ込んでいる、そのようなお気持ちが全く伝わってきません。例えばルツ女はカトリック色が強いですのでもう少しカトリックの精神に沿ったお話しですとか、説明会での学校長のお話しから得た印象を語っていただくのも大切ですね。」

言いにくそうな表情でもはっきりと言い切る南野に悟も頷くしかないようだった。

「それとお母様なのですが…、少しお話が長すぎるかな?と感じました。内容は良いのですが、もっと簡潔にまとめてお話しされた方が良いですね。例えば…。」

みちかはメモを取る。
面接対策は今日と来週の2回しかない。
その後はすぐに、本番だ。
落ち込んでいる場合ではないのだ。
南野の一語一句を聞き逃さないよう、みちかは必死でメモを取った。
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