冷たい花に偽りの太陽を
「────ん...」
ふと目が覚めると、まだ見慣れない天井が視界に映った。
────あたし寝てた?
寝るつもりはなかったんだけどな...。
時計を見れば、短針は8、長針は9を指していた。
うわ、もう9時じゃん。
窓の外には夜景が広がっていた。
別に大して綺麗じゃない。
いや、あたしには綺麗とかわかんないけど。
たぶん一般的な、普通の夜景で、そんなに綺麗なものではないんだと思う。
若干の空腹感を覚え、冷蔵庫を開ける。
「うっわ...」
冷蔵庫はほぼ空だった。
お茶しか入っていないのだ。
でも今から買い物に行って、自分で作る気にはなれないし...。
あたしはため息をひとつこぼして、部屋着からパーカーを羽織った。
一応髪を櫛で梳かし、鏡で自分の姿を見る。
...うん、たぶん大丈夫。
すぐ近くのコンビニまでだし。
あたしはスマホと財布だけ持って家を出た。
歩いて5分ほどの距離にあるコンビニに入っておにぎりを手に取る。
.....今日は1個でいいかな。
あたしは鮭おにぎりを1つ手に取り、レジに向かった。
会計を済ませ外に出ると、コンビニの駐車場に不良が4、5人いるのが目に入った。
絶対かかわらないようにしよう。
あたしは見なかった振りをして家へと向かう。
「...おねえさーん」
男の声が聞こえた。
絶対あの不良達だ。
こういうのは無視しといた方がいいよね。
あたしはそのまま通り過ぎようとした。
「ねーえ!お姉さん、無視はよくないと思うよー?」
1人の不良があたしの前に立ちはだかった。
ああめんどくさい。
今日はめんどくさいことばっかりだ。
こんなことなら外に出なければよかった。
別にご飯なんて食べなくても平気だったのに。
「俺らといいことしよーよー」
不良はあたしの返事を聞かずに、あたしの手を取った。
「いいことってなんですか」
この手を振り払えるとも思えないし、もし仮に振り払えたとしても不良相手に勝てるとは思えない。
だとしたらとりあえず油断するのを待つしかない。
「えー?んー、気持ちいいことだよ〜。」
なんであたしがあんたなんかとその“いいこと”をしないといけないの。
だいたい気持ちいいってどういう感情なわけ?
あたし自身がわからない感情を、こいつら不良が分かるとでも?
「気持ちいいことって、具体的にはどんなことをするのでしょうか」
あたしの言葉に不良の動きが一瞬止まった。
「えー、そりゃあ...気持ちいいことって言ったらあれしかないっしょ。」
「あれってなんですか」
「俺らとヤろうってこと」
あたしの耳元で、男はそう言った。
あたし、あんたなんかとはしたくないんだけど。
見ず知らずの男となんでそういうことをしなくちゃいけないわけ?
「そうですか。」
「そうですかって...。まあいいや。付いてきてくれるよね?」
なんでついていく前提で話してるんだこいつは。
いつ誰がついていくなんて言った?
馬鹿じゃないの。
「いえ。あたしは帰らせていただきます。」
「...は?お前にそんな選択肢はねえよ」
なら何故あたしに聞いた。
聞く意味無いだろクソバカ男。
「どうして選択肢がないんですか」
こんなクソバカ男にも敬語を使っているあたしって偉すぎる。
今すぐ投げ飛ばしてやりたいけど、あたしにそんな技術は備わっていない。
「それは...」
答えられず黙る男を、あたしは鼻で笑う。
「バーカ」
ああいけない。
本性が出てしまった。
でももうこうなったら仕方ない。
この男のプライドを言葉で粉々に砕いてやろう。