冷たい花に偽りの太陽を

それを1口飲むと、愛夢は震えた声で「ありがとう」と言ってくれた。



それが嬉しくて、やっと愛夢に存在を肯定された気がした。



愛夢が俺を許してくれたような気がして。



そんなわけ、ないのに。



「……これ、さっき落としてた」



愛夢が落ち着いたのを見て、俺はさっき拾った箱を渡す。



愛夢は目を見開いて、すぐにカバンの中を確認した。



そして、また震える声で「ありがとう」と言いながら箱を受け取った。



その手はやっぱりまだ震えていて、少し悲しくなる。



「…愛夢、膝出して」



そう言うと、愛夢は少し躊躇いながら膝を出した。



「あ…血が…っ」



愛夢の瞳がゆらゆらと揺れる。



震えが増した。



「愛夢、落ち着け大丈夫だから。」



「おに、ちゃ…っごめ、なさ…っ」



とりあえず、血をとめないとダメか。



俺はバックの中からまだ開けていないミネラルウォーターを取り出す。



そして愛夢の膝に少しかけた。



そしてここに来るまでに配っていたティッシュを開けた。



傷口をティッシュで丁寧に拭いたあと、財布から絆創膏を取り出して綺麗に貼った。



愛夢はまだ震えている。



「…っおにい、ちゃ…っ、や、ごめ、さ…っ」



俺の知らないあの日のことを思い出している愛夢を、俺は見つめることしか出来ない。



こんな無力な兄貴でごめんな。



俺じゃなくて兄貴が生きてたら良かったのに。



そんなことを考えていたってなにも変わらない。



そんなことは分かっている。



わかっているけど、どうしても考えてしまう。



「愛夢、俺は兄貴じゃない。来夢だよ。」



俺は兄貴じゃない。



どう頑張ったって兄貴にはなれない。



兄貴はいつまで経っても俺の中では天才だ。



俺の一番尊敬している人。



成績優秀で運動神経も抜群。



おまけにかっこいい。



ただ、そんな兄貴の世界はいつだって愛夢が中心だった。



愛夢が笑顔になれるように。



愛夢が涙を流さないように。



愛夢の願いはなんでも叶える。



それが兄貴だった。



俺もそんなふうになりたいと思っていた。



でも、兄貴は間違っていると思っていた。



願いを叶えるだけじゃダメだと。



根本的なところから変えていかないと、現状は何も変わらないと。



それを言う勇気はなく、結果兄貴は死んだ。



両親も死んだ。



愛夢は心に深い傷を負った。



兄貴なら、今の愛夢になんて声をかけた?



考えろ。愛夢を第1に。



この世界の中心は、他の誰でもない愛夢だと思え。



そうやって、兄貴は愛夢を守ってきたんだ。



今度は俺の番。



そうだろ?兄貴。

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