冷たい花に偽りの太陽を


「愛夢、もう大丈夫。ここには今愛夢を傷つける人なんていないよ」



“今”はいない。



たとえ“昔”、どんなに愛夢を傷つけていたとしても“今”は違う。



愛夢に触れることは許されない。



本当は会うことだって許されない。



そんな俺が君を守るためには、俺がいなくなるのが一番いい。



でも、目の前で震えている愛夢を置いて行く訳にはいかない。



どうしたって愛夢は大事な妹で、唯一血の繋がった家族だから。



「…っら、いにぃっ」



初めて、愛夢が俺を呼んでくれた。



ちゃんと、愛夢の瞳に映ることが出来た。



嬉して嬉しくて。



でも同時に、泣きそうになっている愛夢の顔を見て悲しくなる。



「…もう大丈夫だから。それ、兄貴に渡しに行っといで?俺はここに居るから。」



愛夢は戸惑いながらも、小さく頷いた。



そして立ち上がる。



「お、わった、ら、また、ここ来る、から。…まっ、てて、くれ、る?」



途切れ途切れの文章に、胸が痛い。



ここまで俺は怯えさせている。



愛夢を守りたいのに。



「うん。分かった。…行ってらっしゃい」



「…行って、き、ます」



愛夢は俺に背を向けて小走りで墓地に戻って行った。



はぁ、とため息をこぼす。



愛夢は変わった。



昔は、俺と兄貴の前だけは、基本笑ってたのに。



俺たちを心配させないようにって。



無理してでも笑ってた。



でも今は、全く笑わない。



悲しみと、苦しみと、恐怖しか表情には出なかった。



そんな風にさせたのは紛れもなく俺だ。



なにが、守る、だよ。



昔から俺は何一つ守れていないじゃないか。



俺はペットボトルを持つ手に力を込める。



今度こそ。



もう、失わない。



もう、傷つけない。



俺は愛夢の笑顔のためならなんだってする。



だから、さ。



また、太陽のような眩しい笑顔を俺に向けてよ。



来夢side end

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