冷たい花に偽りの太陽を
「てめぇ...!」
あたしの“バーカ”って言葉に不良はキレたみたい。
ほんっと単細胞バカだな。
ていうか短気すぎでしょ。
「こうやって声をかけないと、女と遊ぶことも出来ないんですか?可哀想に」
クスクスと笑ってあげる。
まあ本当に笑っているわけじゃないんだけど。
「なっ...!」
男の顔が赤くなる。
わかりやすいやつ。
「だいたい、あんたなんかについていく女はいないと思いますよ?今まで女がすんなりと着いてきてくれたことあるんですか?」
あんたみたいなやつについていく奴いるわけ?
いたとしても腕を掴まれて振り払えなかったんだろうね。
「あなたは、自分のことかっこいいとでも思ってるんですか?とーってもブサイクですけど」
またこのクソバカ男を嘲笑う。
「自分に自信があるから声掛けてきたんですよね?その顔で」
男はわなわなと震えている。
あー怒ってる怒ってる。
あたし、あんなふうに怒ったことないな。
「あんたの顔、底辺レベルですよ?理解してます?」
まさか女にこんなことを言われるとは思ってなかったんだろうな。
でもあたしは普通の女じゃない。
喧嘩はできないけど、口喧嘩なら負ける気がしない。
「てめぇふざけんなよ!」
「ふざけてませんよ。あたしは至って真面目です。」
きっとこの返事が、このクソバカ男にとっては“ふざけている”のだろう。
そして、あたしに怒りを覚える。
苛立って、周りが見えなくなる。
そう、あたしの思惑通り。
「それがふざけてるっつってんだよ!」
「そうなんですか?あたしは真面目に答えたつもりだったんですけど」
フッと笑を零せば、ゆでダコのようにクソバカ男は顔を赤くした。
これだから感情のある人間はバカだ。
バカで────────かわいそう。
感情なんてない方が楽なのに。
「てめぇ...!!お前今どういう状況なのか分かってんのかよ!!」
「状況...ですか?」
「あぁそうだ!俺には仲間がいる。お前なんかには適わねぇ奴らがな。てめぇは俺らにめちゃくちゃにされんだよ!」
状況、ねぇ。
こいつこそ状況分かってるわけ?
ほんと、単純なやつ。
「仲間って、さっきまであそこにいた人たちですか?」
「ああそうだよ!あそこに俺の仲間が────っていねぇ!!!」
ほんとに気づいてなかったんだ。
バカすぎる。
なんでいねぇんだよ!?、なんて男は焦ってるけど、あたしには関係ない。
「じゃあね、クソバカ男。」
あたしはそう言って、男の横を通り過ぎた。
男はもうバイクの鍵を持っていて、あたしのことなんて眼中にない。
こんなことで慌てちゃってバカみたい。
いやまぁバカなんだけど。
それに、男は気づいていないみたいだけど、あたしと男の会話を聞いてた周りの人はみんな男を見て笑っている。
あんたはもうこの近くで女には声なんてかけられないね。
このことは噂できっと広まるから。
“女にバカにされてたよ”とか言われるんだろうな。
まあその通りなんだけど。
あたしはいつの間にか集まっていた野次馬をかき分け、マンションへと帰った。