冷たい花に偽りの太陽を


「…愛夢、顔色悪いよ。大丈夫?」



慧があたしの顔を覗き込む。



「…平気」



あたしは慧から目を逸らした。



『お前が───』



脳内で繰り返されるあの言葉。



震える手をぎゅっと握りしめた。



「……今日は家まで送るよ」



そう言って慧はバイクに跨った。



「コンビニでいい」



あたしがそう言うと、慧はあたしの方を見る。



「そんな真っ青な顔してる愛夢を、コンビニになんて置いていけない。」



慧はいつもより真剣だった。



でも、家には来て欲しくない。



家がバレたらそれこそ自由がなくなる。



今よりずっと。



「いい。平気だから。」



「…じゃあコンビニまで親御さんに迎えに来てもらう?」



「無理。親なんて、もうずっと居ないし。」



あんな人達、親だなんて思ったこともないけれど。



それでも名目上親だったあの人達は、あたしだけを嫌っていた。



あたしが器用じゃなかったから。



あたしが完璧じゃなかったから。



「…親がいない…?」



慧のその呟くようなその声に、あたしははっと我に返る。



あたしはなにを言ってるんだろう。



こんなこと言ったって、慧を困らせるだけなのに。



「…なんでもない。気にしないで。」



気にしないなんて、無理な話だけど。



あたしはなにか聞かれる前に慧の後ろに跨った。



狡いとは思うけれど、聞かれても困る。



まだ話したくない。



彼を信用したわけじゃないから。



信用する気もないけれど。

< 126 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop