冷たい花に偽りの太陽を
イヤフォンをつけて曲を聴き始めた。
あたし、いつまでここに居るんだろう。
お兄ちゃんに会いたい。
でもきっと、本当に会ったら怖がって傷つけてしまう。
曲がサビに入ったところで、プツリと切れた。
何かと思ってスマホを見た瞬間、イヤフォンから着信音が流れた。
ディスプレイには、住吉沙知(さち)さんと表示されている。
一瞬息が止まった。
イヤフォンで電話をするのが好きじゃないあたしは、イヤフォン抜いてソファから立ち上がった。
「…電話」
あたしはそれだけ言って急いで部屋の外に出た。
早く出なくちゃ。
あんまり待たせちゃいけない。
部屋から出て階段とは逆方向に進み、女子トイレの個室に入った。
「……もしもし」
「…遅い。いつまで待たせるの」
「すみません…」
沙知さんはあたしを引き取ってくれた、あたしの今の保護者だ。
もう1年。
あたしが1番長く籍を置いている。
「…あんた、今どこにいるの」
倉庫です、なんて口が裂けても言えない。
ただでさえ養ってもらっているのに。
「…知人の家です。」
知人…友人…他人…?
あたしはみんなとどんな関係なんだろう。
「…………あんた、不良と仲良くしているでしょう。」
仲良くはしてない。
あたしは巻き込まれただけだ。
でも今はそんなことどうでもいい。
あたしが慧達といることがバレているということの方が重要だ。
「……はぁ。これ以上迷惑をかけないでちょうだい。なんで不良なんかと…。出来損ないの、人殺しのあんたに自由なんてないの。」
なんで今日に限って、こんなにもあの日のことを思い出すんだろう。
体が震えて止まらない。
「…ご、めんな、さい…」
「いい?不良とは縁を切って。友達と遊んでいる暇があるなら勉強して。一回目のテストくらい、全教科100点取れるわよね?」
「…はい……」
ブツッと電話が切られ、あたしはその場に立ち尽くす。
もうどうしよう。震えが止まらない。
視界に広がる赤。
繰り返されるあの日。
違うと言い聞かせて無理矢理足を動かし、トイレから出る。
廊下とトイレの段差に躓き、震える体では体制を整えることは出来ず、廊下で地面に節々をぶつけた。
それでも痛いだなんて思っていられず、あたしはただ震える体を抱きしめるように、その場で蹲った。