冷たい花に偽りの太陽を
息が浅くなって、体の感覚が無くなっていく。
『お前が───』
思い出したくない。
もう嫌だ。
怖い。
ドクドクと心臓が速く脈を打つ。
『───死ねばよかったのに』
「…っ」
「…おわっ!?お前どうしたんだよ!?大丈夫か!?」
あたしの元に誰かが駆け寄ってくる。
でも視界がぼやけて誰だか分からない。
「愛夢、落ち着いて息を吐け。」
「…っは、おに、ちゃ…っ」
ねえお兄ちゃん。
助けてよ。
どんな時でも助けてくれるって言ったじゃん。
なんで助けてくれないの。
なんで、いないの?
「た…け、て…お……ちゃ…っ」
「お前……ちっ」
あたしの口に手を当てられた。
息が吸えない。
吸えないのに、落ち着いていく。
「いいか?俺はお前がなんでこんな風になってんのか知らねえ。…だけど、お前を傷つけるやつはここにはいねえよ。それは確実だ。なんてったってお前はここの姫だからな。」
だんだんと視界が鮮明になっていく。
今まで広がっていた赤はひとつもなくて。
それだけでも少し安心できた。
あたしの口を塞いで呼びかけてくれているのは、恭だった。
あたしが震える手で恭の服を掴むと、恭は少し笑ってあたしから手を離した。
「落ち着いたか?」
あたしは深呼吸を繰り返しながら頷く。
「…ごめん…」
たった電話1本で恭に迷惑をかけた。
情けない。
いつまでも過去に縛られて。
恐怖を拭いされずに、いつまでも怖がって。
「…俺だって、あいつらだって、こんな風になる時あるぜ?だからお前が謝る必要ねぇんだよ」
口は悪いけど、恭は優しい。
でもあたしにはその優しさが怖い。
「……………………うん」
長い間の後、あたしは迷った結果小さくそう呟いた。
あたしはゆっくりと立ち上がる。
まだ少しふらついたけれど、なんとか耐えた。
「……………ごめん」
あたしはもう一度謝って、恭の横を通り抜けた。