冷たい花に偽りの太陽を
「前にも言ったけど、愛夢は今狙われてて危ないんだよ」
「分かってる」
「分かってるならなんで…。ここにいれば、俺達白帝が全員で愛夢を守れる。だから…」
「あたしは別に狙われたっていい。もしあたしが人質にされても、慧達は助けなくていい。」
「愛夢……」
あたしは慧に何を言われても、姫を辞めないといけない。
それが親戚達の意思だから。
「…もう、関わらないで」
あたしは少し緩んだ慧の手を振り払って扉を開けた。
外に出ると、恭が立っていた。
「…お前、姫辞めんの?」
「うん」
「ふーん…。それ、お前が決めたの?」
「そうだけど」
「その割には、浮かねぇ顔してんな」
恭があたしに手を伸ばす。
あたしの頬に手を当てて、俯いていたあたしの顔を無理矢理上にあげた。
「お前が決めたんなら、俺は反対しねぇよ。危険なことはお前も分かってるからな。
でも、もしそれが誰かに言われてなら、俺はお前を意地でもここから出さねぇ。」
恭の目は鋭いのに、どこか優しさを含んでいた。
カチャ、と静かに扉が開く。
「そうだよ愛夢。俺らは愛夢が本気で辞めたいと思っていないなら、辞めさせない。」
「慧…。でもあたしは、本気よ。あたしの意思。あたしが辞めたいと思ったの。」
「じゃあさっきのあれはなんだ。大方電話の相手になんか言われて、お前昔あったこと思い出したんだろ。…んで、俺らと関わんなとか言われたんじゃねぇのかよ」
恭から目を逸らせない。
恭に見つめられると、全てを見透かされているような気持ちになる。
「…恭、離して」
恭が本気であたしのことを思ってくれているのは分かる。
…けど、あたしは逆らうわけにはいかないの。
「はぁ…そうだよ、恭の言う通り。あたしは不良と関わるなって言われたの。」
「親か?」
「………違う。」
親では、ない。
あの人たちを親と思ったことは無いけれど、どう足掻いたって親だということにはかわりない。
けど、あたしを引き取ってくれた親戚達を、そんな親と一緒にしたくない。
こんなあたしを引き取ってくれる人なんて、普通はいないんだから。
「…親戚よ」
「親戚なら説得すりゃいいだろ?ここにいないと危ないからって」
恭の言葉にため息をこぼす。
「………簡単な話。親が死んで、こんなあたしを引き取ってくれた優しい親戚に、不良とは関わるなって言われたの。」
「親が、死んだ─────」
慧が呟く。
恭の手が少し緩んだ。
あたしは恭の手を払い除けた。
「そうよ。今は一人暮らし。親となんて住んでない。親戚には嫌われてるの。」
「なんで…」
「──────あたしが、殺したから。」
2人が息を呑むのが分かった。
あたしはリュックを背負い直して2人に背を向けた。
「人殺しのあたしを引き取ってくれた優しい親戚に、関わるなって言われたの。だから姫を辞める。」
それだけ言って、あたしは階段を降りた。
2人が追いかけてくることは無かった。