冷たい花に偽りの太陽を
実際慧だって受けてないみたいだし。
「...遅刻はしてません。」
「じゃあどうしてリュックを背負って廊下にいるの。まさか帰るつもり?」
「.........帰らないです。時間の無駄なんでもう行きますね。」
あたしは先生の横を通り過ぎた。
このままなにも言ってこなければいいのに、なんて無理なんだろうけど。
「ちょっと!?」
先生はあたしの腕を掴んだ。
地味に力強いし。
振り解けないじゃん。
「.....なんですか。」
「教室に戻って授業を受けなさい!!学生なんだから!」
うるさいな...。
大体、テストで学年総合1位を取れば授業受けなくてもいい、なんて変な校則を作ったのはこの学校でしょ。
それなのにどうしてこんな風に言われなければならいの。
これがあたしじゃなくて、お兄ちゃんだったら言われなかったのかな...。
お兄ちゃんなら。
お兄ちゃんだったら。
お兄ちゃんがいたら。
そんなこと考えたって仕方ないのに。
どうしても考えてしまう。
「あたし、1位とるんで。」
1位を取らなければならないから。
それ以外の選択肢は、あたしには存在しない。
「なっ...!」
少し手の力が緩んだところで、あたしは先生の手を振り払った。
先生に背を向けて歩き出す。
お兄ちゃんだって、生きたかったよね。
あたしさえいなければ生きていたのに。
ごめんね。
空き教室について、ドアの鍵を閉めて。
その時にはもう勉強する気にはなれなかった。
ドアに凭れて座り込む。
あたし、なんで生きてるんだろう...。
死にたい。
あたしがいなくなって、誰が困るのかな。
...誰も困らないか。
カタカタと手が震える。
あたしって、ちゃんと存在してるよね...?
自分の膝をぎゅっと抱きしめる。
怖い。
怖いよお兄ちゃん。
助けて...。
震えが収まらない。
ポケットから、小さなカッターを取り出す。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
会いたいよ...。
でもきっと会ったら来兄の時みたいに怖がっちゃうね。
左手首にカッターを滑らせる。
小さくて切れ味の悪いカッターでは、血が垂れるほど切ることは出来なくて。
傷口でぷくりと血が膨らむ。
真っ赤なそれは、あたしをまた過去に縛り付ける。
治まっていく震えと、蘇る過去。
忘れるな。
あたしのせいで3人死んだ。
あたしのせいで、お兄ちゃんと来兄の幸せを崩した。
あたしのせいで。
あたしは、人殺し。