冷たい花に偽りの太陽を
心織に手を引かれて購買には着いたんだけど...。
「...人、多すぎない.......?」
購買は、たくさんの人で溢れかえっていた。
「おばちゃーん!メロンパンもうないのー!?」
「あ、ちょっとそれ私が買おうとしてた焼きそばパン!!」
「お前割り込んでくんなよ!!」
...しかもうるさい。
なんなのこれ。
これが学校の購買?
動物園の餌やり時間じゃなくて?
...人で酔いそう。
「よし!あむちん行くよ!!」
え、この中に入っていくの。
絶対嫌なんだけど。
「心織、あたしは...っ!」
心織はあたしの言葉なんて全く聞かずに人ごみの中に飛び込んだ。
しかもあたしの手を掴んだまま。
「あむちん何好きなの!?なんでもいい!?」
「な、なんでも...」
人混みがすごすぎて、もう答えるのもやっとだ。
なんでもいい。
どうせ食べないんだから。
「ちょっと通してー!!」
心織は叫びながら人をかき分けて、ずんずん進んでいく。
心織強すぎなんだけど。
どこでこんな鍛えてんの。
「...よし!あむちんお金は後ででいいからね!!」
それならあたし来た意味なくない...?
心織がお金を払い、やっとの思いで人混みから抜け出した時には心織の手に3つのパンがあった。
あの人ごみの中でパンを3つ取ってお金まで払うとか、心織何者?
「メロンパンと、いちごとホイップクリームのサンドイッチ、あと焼きそばパンだよ!適当に選んじゃったけど、大丈夫??」
パンは別になんでもいい。
ただ気持ち悪い。
こんな人混み初めてだから、本当に人で酔った。
「あむちん、具合悪い!?顔色悪いよ...!」
心織にまで心配される始末だし。
それに、今まで具合が悪くても隠してこれたのに。
あたし、変わった...?
「.....人で酔った。空き教室行こ」
あたしは心織の横を通り過ぎて空き教室へ向かう。
「あ、あむちん待って...!」
心織がパタパタと走ってくる。
そういえば心織にお金払ってない。
...でもどうせこのまま空き教室だし、そこで払えばいいか。
心織に持たせたままのパンだけ受け取ろう。
食べなくてもあたしのみたいだし。
いつまでも心織に持たせておくのは悪い気がする。
「...心織、パン」
「パン...?あ、これ?空き教室まで持ってくよ?」
「.......平気。あたしが持ってく。」
心織は、そう?と言いながらあたしにパンを渡した。
購買から少し離れて人もいなくなって、気持ち悪いのもさっきよりは落ち着いた気がする。
まだ少し気持ち悪いけど。
そんなことより、心織に顔色が悪いと指摘されたことの方が問題だ。
今まで熱が出ていても周りに気づかれないように振舞っていた。
あたしが風邪をひくことは、迷惑でしかなかったから。
家族がいた頃も、風邪をひくと怒られた。
『面倒な仕事を増やしやがって』
『体調も管理できない出来損ない』
『いっそこのまま死ねばいいのに』
何度言われたか分からない。
その言葉に傷ついて。
お兄ちゃん達が風邪をひいた時は、本当に心配そうな顔をして看病しているのに、どうしてあたしだけ。
そうやってまた傷ついて。
出来損ないのあたしには傷つく権利なんてなかったのに。
自分が傷つかないように、周りに迷惑をかけないように。
そう思っていたら、いつしか誰にも気づかれないように全て隠せるようになっていた。
熱が出ていても、常に人前では笑顔でいた。
親戚に引き取られてからも変わらなかった。
色々な家を転々としていく中で、性格はずっと変えていた。
でもどのあたしも本当のあたしじゃなくて。
その家ごとに望まれるあたしでいようとした。
どの家でも、あたしが風邪をひくことは面倒でしかなかった。
いつしか人前で笑顔でいることをやめた。
それでも無表情になっただけで、周りにあたしの体調のことなんて気づかれなかった。
なのにどうして今心織に気づかれたのか。
心織がただ鋭かっただけなのか、あたしが変わってしまったのか。
それは分からないけれど、あたしが変わっているのだとしたら。
元に戻らなければ。
無表情で、何があっても表情は変えない。
そんなあたしに戻らなければ。