冷たい花に偽りの太陽を
「.....あむちん食べないの?」
空き教室に戻ってきてお金を払って。
お弁当を食べ始めた心織の横で、あたしはリュックにパンを入れた。
「.........お腹すいてない」
朝も食べてないし、昨日の夜も食べたか忘れた。
でも別にお腹すいてないし。
食べなくても平気でしょ。
「ダメだよ食べて!!」
美織はあたしのリュックに手を突っ込んでパンを取りだした。
普通人の鞄に手突っ込む?
何も入ってないから別にいいけど。
「はい!」
心織はサンドイッチをあたしに差し出した。
その心織の目は真っ直ぐで、あたしの全てを知られているような感覚になる。
「.......食べて愛夢」
心織の声が少し低くなって。
真剣な表情をしてるから。
そんな顔されたら、断れない。
あたしは無言で心織の手からサンドイッチを取った。
お腹すいてないけど大丈夫かな。
吐かないといいけど...。
あ、でも三食しっかり食べるあたしになればいいのか。
そうすれば別に苦もなく食べれるよね。
あたしは1度瞬きをして切り替える。
今からあたしは、“三食しっかり食べるあたし”。
目を開いてサンドイッチの袋を開ける。
いちごとホイップクリームのサンドイッチはスイーツみたいだった。
いちごの酸味とホイップクリームの甘みが合わさって、ショートケーキはこんな味がするのかもしれない。
ケーキ自体食べたことないけれど。
まだ家族がいた頃、誕生日にはケーキを食べていた。
でも当然そこにあたしの分はない。
4人が美味しそうに食べているのを見ているだけだった。
お兄ちゃんからケーキを貰うこともあったけれど、必ず両親に取り上げられた。
『これは歩夢の。あんたにはこれを食べる価値もないから。見てないでさっさと消えて。』
両親は冷たい目であたしを蹴り飛ばす。
痛くて、悲しくて、辛くて。
涙がこぼれ落ちそうになるけれど、泣いたらもっと怒られるから必死で我慢した。
『お母さん、お父さん!今はお祝いなんだから、楽しく食べよう?』
『愛夢、今のうちに部屋行って。』
お兄ちゃんが親をなだめ、その間に来兄に部屋にいけと促される。
そしてあたしは、逃げるようにお兄ちゃんと来兄の部屋へ行く。
それが普通だった。
両親から、逃げられても心細くて。
こういう時は決まって、お兄ちゃんの布団にくるまった。
そうすることでお兄ちゃんの香りに包まれて、少し安心できた。
昔のことを考えると、今が幸せなのかもしれない。
今の親戚には殴られたり蹴られたりすることは無い。
一人暮らしだから、食べようと思えばなんだって食べられる。
今だって、ケーキのような味がするサンドイッチを食べている。
昔じゃ考えられない。