冷たい花に偽りの太陽を


前にここに来ていた女の先輩たちか、クラスの女子たち──────もしかしたら慧かもしれない。



慧ならば心織に危害はくわえないだろう。



でも、それ以外なら?



私と一緒にいる所を見たら心織にもなにかするかもしれない。



あたしは音を立てないよう最新の注意を払いつつ、鍵が閉まっていることを確認した。



今日はもうここにはいられない。



少し不安そうに私を見つめる心織を見て、また溜息を着く。



心織の元へ戻り荷物を掴む。



スマホのメモ機能に必要最低限の言葉を打ち込み、心織に画面を見せた。



『私は帰るから。ドアを開けてもいいけど私はいなかったことにしておいて。』



心織はそれを読んであたしに視線を移し、こくんと頷いた。



あたしはそれを確認して立ち上がる。



窓の鍵を開け、そのまま外へ出た。



昇降口でローファーに履き替え、学校の外へ出る。



家には帰りたくないし、どうしようかな。



家とは反対方向に曲がり、そのまま何も考えずに歩いた。



お昼に学校を出たのに、気づけばあたりは茜色に染っていた。



スマホで時間を確認すると、すでに17時になっていた。



そろそろ家に帰らなければ。



遅くなっていたんじゃ白帝にいる時と変わらない。



あたしは来た道を戻ろうと、体の向きを変えた。



そこでふと気づく。



......何も考えずに歩きすぎてどうやってきたか分からない。



仕方ないスマホで経路を検索しよう。



そう思いスマホを出したが、普段ほとんど使わないそれは地図アプリを開いた瞬間に電源が落ちた。



そうだ昨日充電してないんだった。



とりあえず大通りに行くしかないか。



あたしは大通りに向かって歩き始めた。



いっそこのまま消えていなくなれたらどんなにいいだろう。



それすらもきっと親戚は許さないんだろうけれど。



生きることも死ぬことも自由にできないなんて。



出来損ないだと、いらないと。



そう罵るのであれば死なせてくれてもいいと思う。



あたしが死ぬことを許されない理由。



そんなものは世間体のただひとつ。



だんだんと明かりが増え、車の音も大きくなる。



近づくに従って、どんどん息がしづらくなる。



息苦しい。



暗い道で一人でいた方が、どれほど息がしやすいか。



でもそれを、世間は許さない。



それを、親戚は許さない。



あたしは息苦しいこの世界で、息苦しい人混みに紛れて“その他大勢”として生きていくことしか許されない。



大通りに入る1歩手前で立ち止まる。



光と影、陰と陽。



あたしはずっと影で、陰にいたいのに。



あたしに許されるのは影として陽で生きることだけ。



光となることも、陰で生きることも出来ない。



こんな息苦しい世界、無くなってしまえばいいのに。



深く息を吸って、止めて。



大通りへと、1歩踏み出した。



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