冷たい花に偽りの太陽を
長くてだるい入学式は無事に終わると、今度は教室で自己紹介をすることになった。
紹介なんてしたくないし、誰かとよろしくするつもりもない。
けどやらないといけないみたいだから仕方ない。
あたしは前に立った。
「住吉愛夢。中学は他県。部活は入らない。一応よろしく」
あたしはそれだけ言って席に戻る。
さっきまでさんざん爆笑してた人達は、あたしの自己紹介に唖然としていた。
「え、それだけ?」
「なんか感じ悪くない?」
ヒソヒソと話す声が聞こえるけどどうでもいい。
ていうか、そもそもそういう事って堂々と言えばいいのに。
担任の佐々木は「次ー」と言って、強引に自己紹介を進めた。
みんなの自己紹介が終わり、下校時間になるまでは自由時間となった。
教室は動物園のようにうるさい。
ここにいる人達は、静かにするってことを知らないみたいだ。
あたしはイヤホンを耳につけた。
そして曲を流した刹那、前の席の女子が振り返る。
「ねえねえ!あむちんって呼んでいい!?」
折角曲を流したところだったのに。
この学校、あたしが聴いている曲を遮るの好きなの!?
だいたい“あむちん”ってなに!?
「...なんで」
「えぇ?なんでって.......あれ?なんでだろ?」
自分でも分かってないのかよ!!
ちゃんと意味を持って言えよ!
「...あ、でもあむちんって可愛くない?」
「いや全然。」
即答。
だってあむちんって...!!
小学生か!
「えー...。即答だし...。...あ、そだ!あたしは宍倉心織(ししくらみおり)!好きなように呼んでね!」
「うん分かった。宍倉さん。」
「え、苗字!?名前で呼んでよー!」
いやいや、好きなように呼んでって言ったのあなたですけど。
そしてこいつ馴れ馴れしい。
正直ウザい。
「...苗字も名前だけど。」
「あ、確かに...。ってそうじゃなーい!」
おお、ナイスツッコミ。
いやでも苗字も名前でしょ。
「.....はいはい。わかったわかった。宍倉さん。」
「わかってないじゃん!だからなんで苗字なの!?」
逆になんで苗字はダメなんでしょうか。
ぜひ教えていただきたい。
「はぁ。...分かったって心織。」
「いやだから...って心織って呼んだ!」
「やっぱ宍倉さんって呼んだ方がいいか。」
「ううん!心織がいいー!」
ああうるさい。
少しは黙れないのこいつ。
「宜しくねーあむちん!」
「あたしはよろしくしない。ってかあむちんって呼んでいいとは言ってないんだけど」
「なんでぇぇ!?心織って呼んでくれたのに!友達になろーよー!」
「あ、じゃあやっぱ宍倉さんで。」