冷たい花に偽りの太陽を
「おはよう愛夢」
あたしを見て微笑む慧に、あたしも「おはよう」と返す。
あたしはいつも通り無表情だけど。
歩き始めると、慧は昨日と同じように1人で話し始めた。
たまにあたしに話を振ってくるけど、あたしは「うん」とか「そうなんだ」しか返さない。
だからなんでそんなに楽しそうに話せるのか、多分一生の不思議だ。
学校の七不思議みたいな。
慧の七不思議だ。
.....あ、でも不思議1個しかないし。
じゃあ慧の一不思議?
なんかダサい...。
ってこんなどうでもいいことをあたしは何真剣に考えてるんだろう。
これはもはや“愛夢の七不思議”だよ。
ていうか、自分で自分の七不思議言っちゃダメな気がする。
そもそもあたしの七不思議だって、1個しかないし。
.......ほんとにさっきから何考えてるんだろ。
「慧先輩だ!」
「ほんとだ!今日もかっこいい...!!」
そんな声が聞こえてふと顔を上げると、もう学校の近くだった。
「それでさ────────ね?やっぱり恭バカだよね〜」
あはは、と笑う慧に、あたしはなんて返したらいいのか分からない。
「そうだね」は違う気がするし、「そんなことないよ」もおかしい。
かといって、慧に笑い返せるほどあたしは器用じゃない。
そもそも笑い方なんてとっくのとうに忘れてしまった。
結局あたしは何も返せなかった。
昇降口で自分の下駄箱を開けると、たくさんの紙が入っていた。
でもこんなの慣れているあたしにはどうってことない。
あたしは1枚も読まずにそのまま下に落とした。
だってあたしのじゃないし。
入れた人がかたすっていうのが普通でしょ?
あたしは上履きに履き替えて慧の元へ行った。