冷たい花に偽りの太陽を
「.....愛夢、話がしたいの。」
さっきと同様、すこし震えた小さな声がドア越しに聞こえた。
どうして心織はあたしがここに居るってわかったの?
偶然かとも思ったけど、心織は何も返事をしていないこの教室に向かってあたしの名前を呼んだ。
それどころか、何も返事をしていないのにドアをノックしたり開けようとしたりした。
誰かがいると分かっていてやったに違いない。
私がいるとわかった上で心織はここに来たんだ。
「ドアを開けて?」
あたしは鍵から手を離した。
相手が心織なら尚更。
このドアは開けられない。
「.....嫌」
「...........そう。」
あれ、心織にしては聞き分けがいい。
てっきりもっと開けさせようとしてくるかと思ったのに。
まあいいか、そう思ってドアに背を向けた。
「開けてくれないなら、あむりんりんごって呼ぶから」
.......待て待て待て待て。
あむりんりんごってなに!?
いやまだ“あむりん”までは分かった。
うん、百歩譲ってそこは理解しよう。
だとしても!!
なんで“あむりん”に“りんご”が付いた!?
え、あだ名長くない!?
これが普通なの!?
「あ、あむりんりんごじゃなくて、あむりんりんごじゃむって呼ぼうかな〜」
あむりんりんごじゃむ!?
なぜ“あむりん”に“りんごじゃむ”が付いた!!
まだあむりんりんごまでは理解したとして、じゃむってなに!?
いや待って、あむりんりんごを理解しちゃダメだ!
そこを理解したら負ける気がする!!
一旦落ち着こう。
一旦落ち着いて冷静に考えて.....。
って冷静になれるか!!
「開けてくれるよね?あむりんりんごじゃむ」
あむりんりんごじゃむってほんとに呼ぶのね!?
心織の思考回路どうなってんの!?
あむりんりんごじゃむって!
「わ、わかった!開けるから!」
あたしは渋々ドアの鍵を開けた。
その瞬間、ドアが勢いよく開く。
うん、早すぎて指まで持ってかれるかと思った。
すぐ鍵から手を離してよかった。
あたしの指がなくなる所だった。