冷たい花に偽りの太陽を
「無視されて空気みたいに扱われているのに、殴られたり蹴られたりするの。机の中に虫の死骸が入ってたりもした。...上履きがないのなんて、日常茶飯事だった。」
心織はあたしを見て頬を緩めた。
「全部諦めちゃったんだよね。自分の意思を伝えることも、誰かに助けを求めることも。」
あたしと同じ。
あたしも諦めた。
どうせ伝わらない。
どうせ助けてくれる人なんていない。
それならあたしがどんなに頑張ったって、何も変わらない。
だからあたしは諦めた。
最初から誰にも期待しないようにした。
最初から自分の意思なんて持たないようにした。
それが1番疲れなかったから。
「.....中学二年の夏に、私のクラスに転校生が来たんだ。名前は歌瑠(うる)。歌瑠は明るくて、自分の意思をハッキリ伝える子だった。────あたしとは、正反対だった。」
その歌瑠って子は、恐らく今の心織のようだったのだろう。
明るくて、自分の意思をハッキリ伝える。
あたしの中で心織はそんな存在だ。
「歌瑠が転校してきて1週間くらい経った時、あたしは歌瑠と初めて話したんだ。
放課後に裏庭で、バックの中身を探してたの。教室から全部落とされちゃって。そしたらそこにたまたま歌瑠が通りがかったんだ。」
心織はその時のことを思い出しているのか、懐かしそうに話し出す。
「“なにやってんの?”って後ろから声をかけられて、すごくビックリした。私に話しかけてくる人なんているんだって。それで後ろを振り返ったら、そこには歌瑠が立っていた。
私は何も言わずにまた探し出したの。この子もきっと私の敵なんだって決めつけて、頼ろうとしなかった。
でもね、歌瑠は私の横に座って、一緒に探し始めたの。何を探しているかも言ってないのに、歌瑠は探してた。
“探してたのって、これ?”歌瑠はそう言って、私の前に、私が探してたうさぎのキーホルダーを出したんだ。
頷きながらそれを受け取って、ありがとうって言おうとした。────けど、声が出てこなかった。本当は最初から持ってたんじゃないのかって、この様子を他の子が動画を撮っていて、後で何か言われるんじゃないかって。そう考えちゃった。」
簡単に人を信じられない。
周りの人が怖くて遠ざける。
気づいたら、周りの人は全員私を陥れようとしているんじゃないかって考えてしまう。
心織にもそんな時があったなんて、信じられない。