冷たい花に偽りの太陽を
来夢side
兄貴の20歳の誕生日。
俺は初めて、兄貴の誕生日当日に兄貴が眠る墓に行った。
今までも行こうとしていたけど、正美(まさみ)さん───俺を引き取ってくれた親戚の人に、絶対に行ったらダメだと言われてきた。
でも去年の9月、正美さんが病気で倒れた。
末期癌だった。
それから正美さんの容態が良くなることは無く、つい1か月前の3月に亡くなった。
それからはまだ高校生だからと、ほかの親戚に引き取られた。
新しく引き取ってくれた親戚は、今日ここに来ることを止めなかった。
兄貴の墓の前。
しゃがんでいる彼女に、俺は驚きを隠せなかった。
何年ぶりだろうか。
俺と彼女が家族を失ったあの日、唯一現場にいて生き残った彼女。
その彼女に、俺が酷い言葉を投げかけて以来。
俺はずっと謝りたかった。
彼女を精神的に追い詰めてしまった。
あんな言葉は本心じゃなかった。
ただ、大好きな兄貴を失った悲しみと寂しさをどこに向ければいいのか分からなかった。
俺を育ててくれた大好きな両親がいなくなった悲しみと、彼女を虐待する大嫌いな両親がいなくなった嬉しさがごちゃごちゃになって、自分の気持ちが分からなかった。
そのイライラを、彼女以外のどこに向ければいいのか分からなかった。
これはただの言い訳だ。
あくまでも、俺を正当化するための狡い言い訳に過ぎない。
だから俺は、いくら一人で考えていたって意味の無い俺の過ちを、彼女にしっかりと謝りたかった。
──────────でも。
彼女の心は壊れてしまった。
元々ヒビが入っていた彼女の心にトドメをさしたのは、間違いなく俺の言葉だった。
結果、俺は彼女に会うことは許されなくなってしまった。
彼女の心がこれ以上壊れないように。
そうして、俺と彼女は兄妹なのに約6年間全く会わなかった。