冷たい花に偽りの太陽を


きっと正美さんは、彼女が毎年兄貴の誕生日にここに来ていることを知っていて、俺を止めたんだ。



俺が彼女と会わないために。



バックの中から綺麗にラッピングされた箱を出した彼女に、思わず名前を呼んでしまった。



「あ、む...?」



俺は愛夢に会ったらいけなかったのに。



愛夢が震え始める。



俺は心配になって、愛夢の肩に触れた。



その瞬間、愛夢が走り出す。



箱を落としたことにも気づかないくらい焦っていた。



俺の横を走り抜けていく愛夢の瞳から、涙がこぼれおちたような気がした。



俺は走っていく愛夢の後ろ姿を見て呆然と立ち尽くす。



また俺は、愛夢を傷つけたのか?



また俺は、愛夢を泣かせることしか出来ないのか?



また、また...。



謝ろうと思ってたのに。



もう傷つけないと、今度は俺が守ると、そう思ってたのに。



結局俺が傷つけているじゃないか。



この6年間、俺は何をしていた?



何もしてこなかったわけじゃない。



俺の生活の中心には愛夢がいた。



いつかまた家族として、兄妹として暮らせるように。



そのために俺は勉強も運動も頑張ったんだ。



県内1の進学校に入り、成績は常に首席だ。



またいじめられていたら守れるように、空手を習った。



黒帯を取って、インターハイにも出場した。



でもそれは、空手が好きだったからじゃない。



全て愛夢を守るためだ。



それなのに。



こんな所で愛夢を傷つけてどうする。



こんな所で自分が傷ついていてどうする。



それじゃあ意味が無い。



あの頃と何も変わっていない。



俺は愛夢が落とした箱を拾って、あとを追いかけた。

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