この世界にきみさえいれば、それでよかった。


唐突に聞いてしまったせいか、ヒロはなにも答えずにただじっと私のことを見ていた。その視線に堪えられずに、不自然に言葉を付け足す。


「な、なんていうか、ほら、ヒロは私みたいな面倒くさい女は嫌いそうなのにって……」


言ったあとですぐに後悔。別にヒロがそういう人に見えるからとかじゃなくて。単純にヒロは優しすぎるから傷だらけの私の心にはとても滲みるのだ。


「だってお前、目を離したらすぐに海に飛び込みそうな顔してんじゃん」

ざわっと、潮風が私の髪の毛をさらっていく。


「いつやろうか明日にしようかって、そうやってお前はこの海に来てたんじゃねーの?」

ヒロのビー玉みたいな瞳に私が映っていて、そんな目で見られると嘘がつけなくなる。


「……なんでヒロはそんなことまで分かっちゃうの?」


私はひとりだった。だからこの浜辺に来ても別に誰も私に気づかなかった。

なのに、どうしてヒロは私の弱い部分まで見透かしてしまうのだろう。


「さあ、なんでだろうな」と、ヒロの返事はそれだけだった。でも、気づかれたことで見透かされたことで、今まで隠してきた弱音がつい溢れてしまった。
< 100 / 225 >

この作品をシェア

pagetop