この世界にきみさえいれば、それでよかった。
場所は前に学校をサボった時に連れてきてもらった〝うしお浜〟の海だった。
あの時は海開き前で、ただの砂浜が広がっているだけだったのに、今はレジャーシートやパラソルを持った観光客で溢れていた。
「いらっしゃい。今日はよろしくね」
何件か並んでいる中の海の家に着くと、すぐにエプロン姿の女性が出迎えてくれた。あの時と違い髪の毛はひとつにまとめているけれど、ヒロと歩いていたお姉さんだった。
「雨降ればよかったのに」
会って早々にヒロがぼそっと呟く。
ヒロは起きてからバイクでここに向かっている間もずっと面倒くさそうな顔をしている。
「今が稼ぎ時なのに雨なんて降られちゃ困るから!」
「つか、すげー暇そうに見えんだけど」
「バカ。忙しくなるのはこれからよ」
なんだか姉弟のやり取りが微笑ましい。この前は彼女だと勘違いしてしまったけど、こうして近くで見るとお姉さんの目元はヒロによく似ていた。
「今日はわざわざ手伝いに来てくれてありがとうね。えっと……」と、お姉さんの視線が私に向いたので、慌てて自己紹介をした。
「……な、成瀬サユです。初めまして」
事前にヒロは私も行くことも話してくれたみたいだけど、全く役に立たないということもちゃんと伝えてくれただろうか……。
「サユちゃんね。私はヒロの姉の美幸(みゆき)です。今日は1日よろしくね」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
人見知り全開な私だけど、美幸さんはニコリと笑いかけてくれた。