この世界にきみさえいれば、それでよかった。
焼きそばの匂いの効果は絶大のようで、次々とお店にお客さんが入ってきた。
ここは裏と言っても店内の奥の位置にあるから、接客しているヒロのことがよく見える。
金髪の髪の毛に白いタオルを巻いてTシャツからはほどよい筋肉質な腕が見えていた。
料理を運ぶたびに女性のお客さんの視線を釘付けにして、他にもバイトの人はいるのにヒロに向かって「すいませーん!」と呼びかける。
……あんなにカッコよかったら、そうだよね。
ヒロに接客を代わってもらったことを今さら少しだけ後悔してたりする。
「ねえ、サユちゃんってヒロの彼女?」
美幸さんの言葉に思わずコテを落としそうになった。
「ち、違いますよ……!」
そう、私は彼女でもなんでもないし、ただヒロの家に置かせてもらっている野良猫のようなもの。
だからこんな嫉妬はヒロにとっては迷惑だということも分かってる。でも、やっぱりあんまり注目は浴びてほしくない……。