この世界にきみさえいれば、それでよかった。


「でも旦那さんは大丈夫なんですか?」


どうやら今日は会社の事務所に泊まるように連絡したらしい。


「いいの。いたらいたで飯作れ、風呂沸かせってうるさいだけなんだから」

美幸さんと旦那さんは結婚してすでに四年目のようで、やっと授かった赤ちゃんだとエコー写真まで私に見せてくれた。


「可愛いですね!もう顔がこんなにはっきりしてるんですか?」

「今はどの産婦人科も4Dだからね。カラーだし、白黒よりはよく見えるよ」

この小さな命が美幸さんのお腹に入ってるってだけで感動しちゃう。


「やっぱり女の子は反応が違うよね。ヒロなんて写真見せても『宇宙人みてー』しか言わないし」

そんなヒロは今、美幸さん家のリビングのソファーで爆睡中。お泊まりに誘われたのは私だけだったんだけど、帰るの面倒くさいから俺も行くってついてきた。

だけど、海の家で余った食べ物を晩ごはんにして食べたあとは、こうしてスヤスヤと寝息をたてている。


「実は産婦人科はヒロが住んでる街の病院なの。たまに荷物持ちとして付き添ってもらってるんだ」

「そうだったんですか」

だからあの時、ヒロと美幸さんは一緒に歩いてたのか。


「サユちゃんもあの街に住んでるんでしょ?定期検診の時は私も行くから時間が合えばお茶でもしようね」

「は、はい」

お茶はもちろん行く。でもヒロの家に置いてもらってるなんて言えない。

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