この世界にきみさえいれば、それでよかった。


「ちょっと、こっち来い」

すると突然ヒロが私を手招きした。


その顔はどこか怒っているようにも見えて、私はゆっくりとソファーに近づく。

「座れ」と、ヒロが隣を指さしたので私は小さく腰を下ろす。


やっぱり昨日のことを深く聞かれるだろうか。

そうだよね。気を遣ってバイトまで休ませてしまったし、聞かれたら答えなきゃ筋が通らない。


でも言えない。

言いたくないんじゃなくて、過去の私を知ったらヒロが引くんじゃないかって。


そんな人じゃないことは私が一番よく分かっているけれど、傷だらけの私をヒロにだけは知られたくない。
 
だって、きみは私がはじめて恋をした人だから。


……と、その時。

ふわりとヒロの髪の毛が頬に触れて、気づくとヒロの頭が私の肩の上に乗っていた。


「え、ヒ、ヒロ……?」

「動くな」

「……はい」

ずしりと左肩にヒロの重み。


「お前はギブアンドテイクだからな」

「え?」


「謝るなって言っても謝るし、礼はいらねえって言ってもしなきゃ気が済まないタイプだし。対等じゃないと、すぐに私のせいで、私がいるからって、ネガティブになる。本当に面倒くせー女だって思うよ」


図星すぎて、なにも言い返せない……。


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