この世界にきみさえいれば、それでよかった。
肩にヒロの重みを感じながら、ゆっくりとした時間を過ごして。いつの間にか時刻はお昼になろうとしていた。
「コンビニに昼めしでも買いにいこうぜ」と、ヒロがソファーから立ち上がる。
「歩いていくから帽子被っていけよ」
「でも帽子持ってない」
「ほら」と、ヒロが自分の帽子を私の頭へと被せてくれた。前にも帽子を借りたことがあったけど、やっぱりサイズは少し大きい。
「お前、頭小さすぎだろ」
「そんなことないよ!」
頭が小さいというより骨格が細いだけだと思う。カルシウムらしきものなんて摂ってこなかったし、そもそも乳製品が得意じゃないから身長も中学生の頃から変わってない。
「まあ、お前は顔出すとすぐに変な男に捕まるから、深く被っとけ」と、ヒロが頭を軽く叩いた。
ヒロも同様に帽子を被ったあと、私たちは家を出た。
ヒロのアパートの周辺は新緑が豊かだからセミの声も大きいけど、ヒロが隣にいると耳障りには感じなかった。
「なんか冷たい麺食いてーな」
「冷やし中華?」
「うーん。冷したぬきと迷う」
ヒロとの会話にほっこりしながら、私もなにを食べようか考える。
……こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。でもポケットの中でスマホが振動していて、条件反射で私はビクッとなる。
時間もちょうど昨日と同じくらいしだし、なにより今日は帰ってこいと指定されてる日。
おそるおそる画面を確認すると、それはあの男からではなく奏介くんからだった。
私はホッと胸を撫で下ろす。