この世界にきみさえいれば、それでよかった。
私も普通の女の子になりたかった。
オシャレしたり、友達の家を行き来したり、ありふれた普通の女の子がよかったのに、私は全然普通にはなれない。
「なんで謝るんだよ」
ずっと黙っていたヒロが口を開いた。
「そうやってお前はなにひとつ悪くないのに謝るのはやめろ。お前は悪くない。なんにも悪くないんだから」
そう言われて、またぽろぽろと涙が溢れてくる。
お前は悪くない。
本当はそうやって誰かに言ってほしかった。
ヒロがそっと私の涙を拭うように頬に手を添える。ヒロの瞳はまるでビー玉みたいだ。
サラサラとした金髪に左耳にひとつだけシルバーの小さなピアスが光る。ヒロがまとう空気は優しくて海のように穏やかで。
ガラス細工に触るように繊細に私に触れたあと、そのまま身体を引き寄せた。
さざ波とヒロの心音が交互に聞こえてくる。
「俺が傍にいたら、お前のこと守ってやれたのにな」
ヒロが自分のことのようにツラそうな声をするから、じわりと熱いものが込み上げてきた。
そう言ってくれただけで、そう思ってくれる人がいるだけで私は十分。
今日まで生きててよかったって、今はそう思える。
「これからは俺がサユのことを守る。だからお前はもう怯えなくていい」
むせび泣く私をヒロが痛いほど抱きしめて、やっぱりきみの温もりは世界で一番落ち着く。
ねえ、ヒロ。
なんで人は抱きしめ合うんだろうね。
独占欲?
お互いの温度を知るため?
ううん、違う。
もしかしたら、互いの心臓の音を聞くためかもしれないよ。
この瞬間を、きみと生きている。
そうやって実感して、愛しさを覚えて、
好きから、もっと深い愛情に変わっていくことを、私は今日はじめて知った。