この世界にきみさえいれば、それでよかった。



「どうぞ」

私はテーブルに冷えた麦茶のコップを置いた。


あれから私が割ってしまったヒロのコップは一緒に買いにいって、私はいいと言ったのに、黒猫のイラストが描いてある可愛いコップまでヒロは新調してくれた。

今ではただの麦茶も黒猫のコップで飲むととても美味しく感じる。


「なんかサユちゃん、すっかりこの家に馴染んじゃったね」

私が出した麦茶を奏介くんが一気飲みした。


「え、そうですか?」

「エプロンまでしちゃってさ」

「こ、これはヒロが……」


実はコップを買いにいった時、同じ黒猫のエプロンもヒロに買ってもらったのだ。

『お前はすぐに洋服を汚すから』と言われて、たしかにキッチンで食材を混ぜたり温めたりするだけで、なにかと私のほうに汁が飛んでくることはあった。

せっかくバレないようにティッシュで拭いていたのに、どうやらヒロはそんな私の姿も見ていたらしい。


「可愛いよ。奥さんみたい、俺の」


……ああ、このセリフはヒロに言われたかった。
まあ、ヒロはこういうことを言うタイプじゃないけど。

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