この世界にきみさえいれば、それでよかった。
ヒロはそのあとも変わった様子はなくて、「やべえ。遅れる」と慌ててバイトに向かう準備をはじめる。
ヒロはいつも下だけは普通に私の前で履き替えるけれど、上は必ず脱衣場で着替える。
私も肌を見せられないから着替えはいつも脱衣場だけど、下は良くて上がダメなヒロの基準はよく分からないなあと毎回思ったりはしている。
着替え終わったヒロの髪には寝癖がついていて、また帽子で無理やり押さえつけてしまうんだろう。
「大丈夫?」
気づくと私はそんな言葉をかけていた。
「大丈夫ってなにが?」
そう言われると困るんだけど、なんとなくさっきヒロが起きなかったことが気になって仕方がない。
「疲れてない?」
疲労は顔に出さないけど、こんな暑い日に毎日バイトに行ってれば疲れていないはずがない。
だからさっきも朝寝坊しそうになったし、本当はかなりムリをしてるんじゃないかって……。
「平気だよ。ちゃんと戸締まりだけはしっかりしろよ」
ヒロはそう言って、朝ご飯も食べずにバイトへと向かった。