この世界にきみさえいれば、それでよかった。
そろそろヒロが帰ってくる時間。私は買ってもらったエプロンをしてキッチンに立つ。
料理の腕は相変わらずだけど、ヒロが最初に作ってくれた野菜炒めの味が忘れられずにこっそりと伝授してもらっていた。
まあ、ヒロが作ったほうが圧倒的に美味しいけれど、フライパンを焦がすことはなくなったから上達はしてるはず。
野菜だけを食べやすい大きさに切り揃えて、あとは炒める状態にしてヒロの帰りを待つ。
いつもなら大体6時には帰ってくるのに今日は30分が過ぎても一時間が過ぎてもヒロは帰ってこなかった。
さすがにおかしいと思ってヒロに連絡をしようとすると、タイミングよくスマホが手の中で振動する。
画面には知らない番号。
普段なら電話帳に登録されていない番号には出ない主義だけど、今日は自然と画面をタップして耳に当てていた。
「……はい」
小さく声を出すと、スピーカーからは知らない女性の声。
「もしもし。中央総合病院の看護士の松村と申します。結城ヒロさんがバイク事故を起こしまして、現在こちらで治療しております。緊急連絡先などが不明だったので、スマートフォンの一番上の履歴の番号にご連絡させていただきました」
その言葉にドクンッと、心臓が跳び跳ねた。