この世界にきみさえいれば、それでよかった。


「妹さんでしたか。ご両親は?」

「今は離れて暮らしています」

バレないように、私は冷静に言った。


「でしたらお兄さんにもうバイクは乗らないように厳しく言ってください」

「……なぜ、ですか?」

またイヤな胸騒ぎ。


「ご家族ならご存知でしょう。お兄さんが持っていた〝コレ〟を拝見しました」と、医師の人はヒロの薬を私に見せる。

それは私が以前、ヒロのポケットで発見した正方形のケースの中身で、薬はやっぱり四種類。


「心臓に疾患がある方や発作などの危険性がある方はバイクなどの運転は厳しく禁止されています。今回は単独でしたがもっと大きな事故を起こしていたら大変なことになっていましたよ」

……ドクンッ。


「……心臓に疾患?」

「これは心臓病の薬ですよ。妹さんなのにご存知なかったんですか?」


誤魔化すことも忘れて私はひどく動揺していたと思う。

そのあと医師の人からヒロの薬を受け取ってバイクのことについて再度忠告されたけれど、正直あまり頭には入ってこなかった。

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