この世界にきみさえいれば、それでよかった。
それから2日ほどが過ぎて、またヒロはスマホのアラームで起きられなかった。なんだかとてもダルそうな顔をしていて体温計で熱を計ると37.3度ほどの微熱があった。
「今日はバイト休んだほうがいいよ」
もしかしたら、これも心臓病の症状だったりするんだろうか……。今までこんなことは一度もなかったのに、病気の影が大きく見えはじめている気がして怖くなる。
「そう簡単にはいかねーよ」
責任感のあるヒロは私の言うことなんて聞かずに立ち上がる。だけどその足はフラフラで私は倒れそうになるヒロを支えた。
「お願いだから休んで」
そう必死に訴えると、ヒロは諦めたようにバイト先に電話しはじめた。
いつも真面目なヒロの頼みはすんなりと聞いてもらえたようで、『夏風邪なら良くなるまで休んでいいよ』と言う声が電話越しに聞こえた。
再び布団へと戻ったヒロは少し不機嫌で、よっぽどバイトを休みたくなかったのかもしれない。
「今日はとりあえず安静にしてて。食べたいものはある?」
「今はなにもいらない」
そう言ってヒロは私に背中を向けてしまった。
体調不良の八つ当たりというよりは、なにかヒロの中で譲れないことがあるような気がした。
それがなにかは分からないけれど、ヒロは頑固だからと言っていた美幸さんの言葉の意味が少し理解できた気がする。