この世界にきみさえいれば、それでよかった。


熱は上がることもなかったけど下がることもなくて。身体の内側でなにかが攻撃しているみたいに、ヒロはダルさだけが続いていた。


「病院に行く?」

「大したことないから別に平気だって」

「でも……」

「いいから」

ヒロはそうやって意地ばかり張っている。


私ひとりじゃどう対処していいか分からずに、気づくとヒロには内緒である人に電話をかけていた。


暫くして家のインターホンが鳴った。ドアを開けると、そこには美幸さんの姿。


「すいません。急に電話をしてしまって……」


「いいのよ。妊婦はけっこう暇だから」と、美幸さんは笑顔でヒロの家まで駆けつけてくれた。


美幸さんはヒロの扱いに慣れているから家に上がるなり、ヒロのおでこに触れて体温をピタリと言い当てる。


「37.3度ってところだね。けっこうダルいでしょ?」

「あ、姉貴。なんで……」

「なんでじゃないよ。あんたがそうやって意地っ張りだからサユちゃんがどうしていいか分かんなくて私に電話してきたんでしょ?しんどいなら病院に行く。本当に大丈夫ならサユちゃんを心配させるようなことはしないの」

「………」

さすがはお姉さん。ヒロを一発で黙らせてしまった。

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