この世界にきみさえいれば、それでよかった。



美幸さんは早速ヒロのために消化のいいものを作ってくれた。本当に私なんかよりもずっと頼りになって、なにもできない自分が情けない……。


そんな私を見て、美幸さんは「卵がないからコンビニまで案内してくれる?」と言ってきた。

私も色々と美幸さんには聞かなければいけないことがある。


「ヒロ、あんたは動かずに大人しく寝てなさいよ」

「わかってるよ」

ヒロはなんの疑いもしないで、私たちは簡単に二人きりになることができた。


外はいつの間にか黄昏時になっていて、空にはいわし雲が浮いている。最近はセミの声もずいぶんと少なくなってきて、うだるような暑さも和らいできた。

そんな夏の終わりを感じながら、最初に声を出したのは美幸さんのほうだった。



「その顔はなにか知ったんだね」

どうやら美幸さんにはお見通しのようだ。

 
ヒロは全然気づかないというのに、きっと電話をした時点で美幸さんは色々なことを察していた。



「……ヒロは心臓病なんですか?」

声が震えたのは気のせいじゃない。 


聞いておいて答えを聞きたくない自分がいる。
でも美幸さんの返事はすぐに返ってきた。


「うん」


……ドクンッ。


本当はなにかの間違いであればいいと思っていた。だって認めてしまえばヒロがどこか遠くにいってしまうような気がして。

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