この世界にきみさえいれば、それでよかった。



「……いつからですか?」

「ヒロの心臓病は生まれつきなの。だから小さい時はずっと病院に入院してた」


……それであの時、ヒロの幼い頃の写真が一枚もなかったんだ。


「わ、私色々と無知で分からないことばかりなんですが、ヒロは薬を飲んでますよね?それって飲み続けてたらいつかは治るということですか?」

すると、美幸さんは静かに首を横に振った。


「心臓病の最後の砦(とりで)は心臓移植しかないの。ヒロはもうすでに8歳の時に移植を受けてる」

「じゃあ、どうして今も薬を……」

「血を循環させるものとか免疫の薬とか、移植してからも色々と飲まなきゃいけないものがたくさんあるのよ」


私が知らなかったことだらけで今は頭を整理することで精いっぱいだ。


「移植をしたということは……もうヒロは大丈夫ということですよね?」


心臓病の砦が心臓移植ならば、すでに移植を受けているヒロは私の無知な考えからすれば大丈夫なはずなのだ。なのに、美幸さんの表情は暗い。

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