この世界にきみさえいれば、それでよかった。



乾いた地面にポタポタと滴が落ちて、雨なんて降っていないのに次第に濡れていく。

その涙を見た美幸さんはヒロと同じように、私の頭を優しくポンポンとした。


「私、前にサユちゃんにヒロをよろしくって言ったでしょ?あとでなんて無責任なことを言ったんだろうって後悔したの。私は病気のことを知っていたのに」

「……美幸さん」

「でもやっぱり弟は可愛いから、どんなに重たいものを背負っていても幸せになってほしいって願わずにはいられなくて……」


美幸さんは言葉に詰まりながら口元を押さえた。


私は無知な子どもだけど、美幸さんのこの口調からしてヒロの病気が軽いものじゃないって分かるし、ヒロの傍にいることに覚悟が必要だってことにも気づいている。



「私、ヒロにたくさん救われたんです」

ヒロがいなかったら私はとっくに潰れていたし、もしかしたら海にだって飛び込んでしまっていたかもしれない。


「だから今度は私が返す番なんです。こんな私でもなにかヒロのためにしてあげられることがあるでしょうか……?」


私はヒロに甘えてばかりだった。

ヒロがいれば、ヒロさえいればって心の支えにしてた。

そんな寄りかかってばかりの私だったけれど、ヒロのためならなんだってできる気がする。

そんな風に私を変えてくれたのもヒロだ。


美幸さんはなにも言わなかった。その代わり私たちは同じ色の涙を流した。

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