この世界にきみさえいれば、それでよかった。



――『いなくなられたほうは、いなくなるほうの気持ちが分かんないのと同じで、いなくなるほうだって、いなくなられたほうの気持ちは分かんないだろ』


まるで自分が経験したことがあるみたいな言い方だって思ってた。


仲良しだった女の子が突然いなくなってしまい、その子の心臓とは知らずに提供されたヒロ。

もちろんヒロは心臓移植をずっと待っていたんだろうし、ドナーが見つかったと聞かされた時はこれで生きられると安心した感情もあったかもしれない。

でも、それが女の子のものだったと知って、ヒロはきっと思ったのだ。


その子の代わりに自分が生かされたことが、本当に正しいことだったのかって。

昏睡状態だった女の子はヒロに心臓を提供することを本当に望んでいたのだろうかと。


女の子の気持ちはもう二度と聞くことはできないし、生かされたヒロの気持ちも女の子には届かない。

そういう経験をしたからこそ、ヒロはあの言葉を私に言ったのだと思う。

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