この世界にきみさえいれば、それでよかった。



「俺はその時からずっと考えてんだよ。その子の心臓をもらってまで生きる意味はあったのかって。俺に提供なんてしなければ昏睡状態のままでも生きることはできたのにって」


ヒロがそんなことを思いながら生きていたなんて私は全然知らなかった。


ヒロはこの海で生きることの意味を考えて、私はこの海で死ぬことばかりを考えていた。

苦しさの種類は違ったけど、明日を迎えることに迷いがあったのは同じ。


「……好きだったの?その女の子のこと」


ピースサインしていた幼い日のヒロは、その子のことが大切だったんだろうと分かるぐらい嬉しそうな顔をしていたから。


「……しょせん8歳のガキだからな。そういうのを自覚する前に会えなくなったって感じかな」


ヒロは口を濁したけれど、私には分かる。

ヒロはその子のことが好きだったからこそ、今もまだ苦しみの中にいるのだと。

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